第66話

わざわざ足出す程でもねーから出しはしねぇが。


俺の言葉に多少は真実味を感じたのか、ダルが一応は「悪かった」と素直に謝ってきた。


そうそう、分かってくれりゃいーんだよ。


うんうん、と頷いてから、俺は「で?」とダルに向かった。


「こっちの方はてんでダメだよ。

そっちの収穫は?」


聞くとダルが溜息混じりに息をついて、さっきまで俺が座ってた石段の横に腰を下ろした。


「こちらも収穫はなし、だ。

多くの人があの犬カ……、“あの子”の事は知っていたが、街中で見たという者は、やはり一人もいなかった」


犬カバ、の部分を丁寧に言い直しながらダルが言うのに、俺も よっこらせ、とその隣に腰を下ろす。


頭の後ろで腕を組んで あ~あ、と頭を後ろに倒した。


日の高さは丁度、頂点からやや西に沈みかけた辺りだ。


昼を一、二時間は過ぎてるだろう。


ぐぅぅ、と腹まで鳴り出しやがった。


「……とりあえず飯でも食って出直すかぁ。

腹が減っちゃあなんとやらだ。

飯食って頭回して、犬カバ捕獲作戦でも考えよーぜ」


言うと、ダルが鼻で静かに息をついた。


仕方ねぇが同意って意味だろう。


俺は よし、と一つ頷いて、前に置いてたミルク皿をそのまま脇に避け、自分の両膝に手をついて立ち上がった。


とにもかくにも、腹ごしらえだ。

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