第65話

「ダルの奴、まだ生真面目に街で聞き込みしてんのかねぇ。

ご苦労なこって」


へっ、と笑いながら、地面に置いたミルク皿へ目をやる……と。


そのミルク皿の上に、一つ大きな影が差した。


……ありゃ?


ズイ、と頬杖ついたまま視線を上げると、腕を組んで、ひじょーに怒った空気を醸し出す一人の人物が仁王立ちしていた。


──ダルだ。


「~何がご苦労なこって、だ。

まさか私が街で聞き込みしてる間、ずっとこうしてサボっていたのか?」


言葉の端々にもれなく『怒り』マークをつけながら、ダルが低く言ってくる。


俺は わっ、ちょっと、と思わずその場でバッと立って弁明した。


「お前どっから湧いてきた!?

つーかヘンな誤解すんなよな!

俺だってほうぼう犬カバを探し回ってたんだぜ!?

今はちょーっと休憩してただけで!」


慌てて言うとダルが「どうだかな」とあまり信じちゃいない目で俺を見てくる。


俺は思わず はぁーっと息をついた。


「~ったく…。

この俺の足に出来たマメを見てみろってんだよ。

慣れねぇ女もんの靴と服で、あちこち歩き回ったり這いつくばったり……」


実際右足の裏なんか水ぶくれみてぇなマメが二つも出来ちまってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る