第60話

ま、このくらいの距離感がいいってんなら俺には全く異論はねぇ。


にっこり笑顔のまま先を口にした。


「手配書のあの子なんですけど、絵には小さな翼が描かれてましたよね。

あの翼で空を飛んだり出来るんでしょうか?

逃げ出した時の状況や、あの子が好みそうな場所や物なんかも教えて頂けると捜索に役立つと思うんです」


笑顔でにこにこ言いながらも、俺は軽く鼻がヒクつくのを感じていた。


何かしんねぇけど、このカウンターの付近に来たとたん、妙な臭いがしてきた。


便所と生ゴミを合わせたよーな、何とも言えねぇ嫌な臭いだ。


俺はさりげなく ツン、と鼻を静かにすすって、隣に並ぶダルを見る。


ダルの方もやっぱり臭うんだろう、眉をわずかに寄せて呼吸を忍んでんのが分かった。


俺は ちら、と店主を見る。


店主がひきつった笑みでまたわずかに後ずさった。


まさかこの店主から臭ってんのか?


俺が営業スマイルのまま問いかけた言葉に、店主が ああ、と気を取り直したように言う。


「──ああ、ええ。

実は餌やりの為に檻を少し開けた時に、ふいをつかれましてな。

そのまま外へ逃げて行ってしまったという次第で。

あやつは空は飛べません。

好むのは静かな狭い場所で、ミルクも好きです。

というより、ミルク以外のものに興味を示したことはありません。

あやつが逃げ出してもう一日半経ちます。

きっとひもじい思いをしていると思うのですが……」

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