第53話

気配でラビーンたちがこっちを見てるのが分かるが、俺はあえて無視することにした。


そのうち自分達の出る幕がねぇとなりゃ立ち去るだろ。


カウンターの向こうには女のマスターがいた。


年は20代後半あたりってとこだろう。


腰まで伸ばした茶髪を無造作に後ろで一つに縛った女だ。


見た感じそれなりに鍛えてそうだし、顔立ちのきれいなお姉さんではあるが、怒らせると中々怖そうだ。


マスターは初めはダルを、それから俺をじろりと上から下に見て、厚ぼったい唇を開く。


「見ない顔だね。ギルドに何か依頼かい?」


聞いてくる。


俺は一つ咳払いしてにっこり笑顔で口を開いた。


「──依頼を請けに来たんです。

私たちに出来そうな、何かいい依頼は来てますか?」


営業スマイルで、出来るだけかわいい声で聞く……とマスターがじっと俺を見てくる。


何だか俺の女装を見破ってんじゃねぇかと思わんばかりの、じっとりとした目だ。


俺が冷汗だらだらで正面からゆっくり横に視線を反らす中、マスターが数秒の時を置いて はっ、と一つ鼻で笑って見せた。


そうしてすぐ横にある木の看板に貼ってある賞金首のポスターを顔だけで示す。


「リッシュ・カルト。賞金首さ。

あんたたちに最も向いてる“いい仕事”だよ。

生きてても死んでても、ゴルドーの所に突き出しゃ一億ハーツだ」


言ってくる。


まさかとは思うが、これ俺って分かってて言ってる訳じゃねぇよなあ?


分からねぇが、こっちから聞く訳にもいかねぇし、その勇気もねぇ。

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