第20話

男はしばらく俺を見た後に、いう。


「──私は……ダルクという。

君は一体…?」


自分の名を名乗るのに、ほんの何分の一秒か、間があった。


本名じゃないのかもしれない。


直感的にそう感じつつ、俺は男に向かっていう。


「──私は、リアよ。

ここは私の家だけど…。

あなた、いきなり人の家に上がり込むなんてどーいうつもり?

泥棒か何かなの?」


ぺらぺらと、口が勝手に動く。


さすがは口先八丁と言われた俺だ。


自分自身にちょっぴり感動するぜ!


ところが男、ダルクは俺をしげしげと冷静な眼差しで見つめ、眉をひそめる。


ぎくりとした俺に気づいたのかどうか──。


「…もう一度問うが、君はどこの誰だ?」


問いかけてくる。


俺は…たらりと冷や汗が流れるのを感じだ。


ピン、と一つ人差し指を立てて、聞き返す。


「その質問に答える前に、一個質問。

あなた、ゴルドーの手先?」


一応まだ女声のまま問うと、ダルクが妙な顔をする。


「ゴルドー…?誰だ、それは」


「極悪金貸し ゴルドー。

この辺りじゃわりかし有名よ」


言ってやると、ダルクは訳がわからないって言わんばかりに肩をすくめた。


返ってきた返事も「知らん」の一言。


俺はほんのちょっと息をつく。

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