第22話 すれ違い

最近、天斗は

やたら色んなお店に

愛を連れて行っては

『味どう?』と聞く


愛は正直に

『ここのお店のこの麺は

 こしがあってとか』

その料理を事細かに

コメントしてあげていた


どうやら

そのコメントを

遠方のネットの友達に

伝えているようだ


『愛のおかげで

 ネットのお友達喜んでたよ』

って天斗に

よく言われることが増えた


なぜ?

天斗は私に

そのお店にわざわざ

連れて行って

食させて

コメントさせて

ネットの友達を

誘っているんだろう


天斗のこういう

思考が正直

愛は理解できないでいた


愛は天斗に

疑問に思ったので

尋ねてみた


そしたら…

どうやら『味覚』が

いまいちみたいで

自信がないから

愛なら的確なコメントを

もらえるから

そうしているみたい


そんなまどろっこしい事を

してまでも

天斗はネット友達に

気に入れられたいようだ


これほどの

承認欲求の強い人とは

今まで思ってなかった


どうやら

遠くから現地に着いても

『遠くからよく来たね』と

褒められるらしい

天斗は他人から

物凄く褒められたい

人みたいだ


愛もよく

天斗のことを

褒めるのだが

愛ではだめなようだ



―天斗は私を利用価値に

     思ってる?―



ある夏も終わりかけてた

季節の頃

会社で

天斗は健康診断を受けた

それで再検査をするように

封筒が送られてきた


天斗は不安になって

愛にこわいよ、こわいよって

言っていた

愛は早期に見つかると

早く治せるんだから

しっかり見てもらおうねって

優しく天斗を励ました


天斗は再検査を受けに行った

愛は心配で

たまらなかった

朝も天斗はぐずぐずして

落ち込んでいたから


病院に行ったわりに

連絡が天斗からない

気になって天斗の携帯に

電話をかけた


トゥルルルルル…

『はい、何?』と

天斗が出た


『何じゃあないわ!

 連絡が全然ないから心配してたのよ』と


愛はかなり

心配が行き過ぎて

感情的な口調で

強めに言ってしまった


『あぁ~そのことね』って

天斗はめんどくさそうに言った


『そのことね~じゃないでしょ!』

『以前からも今朝も、

悩んでたじゃあない?』


あれな

大きな病気ではなかったわ


『それがさー

 蓄膿だった』


そうなのね…

ガンとかではなかったのね

良かった…ほっとしたわ

と愛は胸をなでおろした


『ごめんごめん、仕事中だったね』

『もう気になって仕方がなかったのよ』

『でも、そこまでの

大きな病気でないのなら

 安心したわ』って


電話を切ろうとしたら…


天斗が『そうなんよー』

さっきもねネットの友達に

『お前ウケるなー』って

馬鹿笑いしてた所でさー

ってさらっと話してきた



―愛の中で何かがプツンと

   切れた音がした―



その後

天斗の部署の飲み会に

愛も呼ばれて

ワイワイ楽しんでいる時

天斗が再検査の話題を

皆の前でネタのように

話し始めた


愛が馬鹿正直でこいつ

本気にするんですから

みたいなことを

悪ノリしまくったように

長々と言い始めた


愛は茶化されるのが

一番嫌いなのに

それに愛の本気で

天斗を心配している

気もちをここまで

踏みにじられて




堪忍袋の緒が切れた



愛はみんなの前で

泣きながら


『もう二度と

本気で心配はしないからね!』


かなり強めの口調で

叫んだ


周りの人たちも

愛さんに謝れ!!って

叱ってくれた




―なんか

真面目にやっているのが 

  あほらしくなってきた―








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