第9話

盛り上がってる会話を遠くに聞きながら、自分とはまるで正反対である植草の理想のタイプに、私はショックでその場から駆け出していた。

当時、植草はまだ背が低く、身長160センチあるかないかの頃。既に私は170センチを超えた長身だったので、どう見たって釣り合わないの位自分でも解っていたのだけれど。


「あくまで理想だけどね。その為にオレは身長を伸ばさなくてはならない!」


そんな宣言のような叫びが聞こえていたけれど、私はその場に偶然居合わせてしまったことを心から後悔し、泣きに泣いて。

そしてその夜…。自ら植草への気持ちを封印した。



(イヤなこと思い出しちゃったな。それもこれもみんな、植草が変な願掛けなんて話、持ち出すからだ…)




そうして、翌日。

バレンタイン・デー当日。


「あのっ、雪乃センパイ!憧れてます!これ、受け取ってくださいッ!」

「あ…。どうもありがとう」


去年と変わらぬ景色がそこにはあった。



「さっすが、雪乃。これで何個目よ?」


友人が面白そうに笑顔で見上げて来る。


「うーん。数えてないから分かんないけど。朝練で後輩に結構貰っちゃったから…」


既に十個は超えてるかも知れない。


「やっぱ、モテるねー。バスケ部エース様は」


横でヒューヒュー言ってる友人に「別に、そんなんじゃないし」と、あかんべをする。

休み時間、音楽室から教室へ戻る途中にも、こうして呼び止められチョコを受け取ったりしている。こんなのは、ここ数年毎度のことのようになってしまっていた。


「だいたい、お返しするのもひと苦労なんだよー」


憂鬱ゆううつすぎる。思わずため息が出てしまう。

来月のお小遣いは、ほぼお返しに消えてなくなるだろう。




「えっ?雪乃、ちゃんとお返ししてるのっ?」

「うん、もちろん。してるよ?」

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