第10話

何にしても、まずはここから抜け出さなくては。


実琴は、ほふく前進のように腕に力を込めた。…が。


(あれ…?)


視界に妙な違和感が生じた。

目の前にある自分の腕が、まるで獣のように毛むくじゃらだったのだ。


(ま…まさか、そんなワケ…。私、頭打っておかしくなっちゃったのかな?)


実琴は現実逃避をするように空を見上げた。

空はどんよりと暗く、今にも雨粒が落ちてきそうだ。


(本当に早く帰らないと、雨が降ってきちゃうよ)


でも、何故だろう?この樹…こんなに大きかったっけ?


見上げた先程登った樹は、まるで天まで高くそびえるほどに大きく見える。


不安に駆られた実琴は、今度はぐるりと周囲を見渡した。

敢えて自分の腕は見ないようにしていたけれど。



それは、不思議な光景だった。


周囲に生えている草も背が高く太く、今まで見たこともないもののように見える。

隣にそびえ立つ、とてつもなく太い幹の横には見慣れた鞄。

さっき、自分が置いたものだ。だが、大きさが半端ない。


(全ての物が大きくなってる…?いや、違う…私が小さくなってるんだ…)


それに、ただ小さくなったんじゃない。



改めて自分の両腕を目前に掲げて見た。


フワフワの毛。そして手のひらには肉きゅう。


信じられない。

信じたくはない、けど…。


(私、ネコになっちゃってるッ??)


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