第7話

(でも、いったいどこに…?)


周囲を見渡しながら、よく耳を澄ます。

すると…。


(いた…)


樹の上。

太めの枝の上に、小さな子猫がうずくまるようにして丸まっていた。

本当に小さくて「みゃあみゃあ」と鳴くその鳴き声からも、まだ生まれてから然程さほど経っていないのが判る。


「どうしたの?…もしかして、降りられないの?」


実琴はすぐ真下まで行って見上げると、声を掛けた。


小さく震えているその姿を見る限り、とても自分の力で降りて来られるとは思えない。

背伸びをして手を伸ばしてみるが、全然届かない距離。


「っていうか、どうやってそんな所に登ったのよ?」


親猫にくわえられて登ったのか。それとも、カラスか何かに連れて来られてしまったのだろうか。


周囲を見渡してはみるが、協力してくれそうな人影はどこにも見当たらない。


「うーん…。これは、木登りするしか方法はないか…」


実琴は誰に言うでもなく呟くと、その樹の下に自分の鞄を置いた。


(でも、大丈夫。お任せあれ!木登りなら任せといて♪)


子どもの頃よく、登ったんだよね。

こんな所で、昔のお転婆スキルを発揮できるとは思ってもみなかったけれど。


(ちょっと制服が汚れちゃいそうなのが気にならなくはないけど…。この際、仕方ないよね)


実琴は慣れた様子で、その樹に登り始めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る