第19話

私の言葉に。蒼くんは、それでも迷うような素振りを見せていたけれど、ジッと見つめ続ける私の本気をみ取ってくれたのか、心を決めたように「わかった」と、小さく頷いて見せた。


そうして、ぽつぽつと蒼くんの口から語られた真実は、私の想像を遥に超えるものだった。

蒼くんの言い回しで、何となく良くない状況であることだけは想像出来ていたけれど。

まさか……。



「ご……ねん、まえ……?」

「ああ。もうすぐ五年になる……。ユウは十一歳の誕生日を迎えてすぐに、亡くなったんだ」

「………っ……」


その、あまりに信じられない事実に。

何も言葉が出てこなかった。

でも、実感も何も湧かなくて、涙すら出てこない。


「こんなこと……今日誕生日のお前に聞かせる話じゃないだろう?デリカシーがなくて、ホントごめんな……」


申し訳なさそうに小さく息を吐く蒼くんに、ぶんぶん……と首を振った。


「蒼くんは悪くない……。だって、私がっ……」


聞きたいって無理いしたのに。


そんな声にならない言葉を蒼くんは聞き取ってくれたようだった。

こちらを気遣うような、優しい笑顔を向けてくれる。


「アイツもさ、本当にデリカシーがなくてさ。自分が遥との約束を守れそうもないからって、俺に行ってくれなんて平気で頼むんだ。酷い話だよ……。遥はユウに会うのを楽しみにしてるっていうのに、俺にどんな顔して会いに行けって言うんだ」


最後はぼやくように。だが、その横顔はどこか友人を懐かしむような、そんな表情をしていた。





五年前……。



「遥に、手紙を書いたんだ。蒼……これを遥に渡してくれないかな?」


病床で弱々しい笑顔を浮かべて、ユウは言った。

手には封筒。手に取らずとも判る程に僅かに厚みがある。


「約束……してんだ。遥の16歳の誕生日に、あの公園で会うって……」


だから、その日に行くことが出来そうもない自分に代わって行って欲しい。ユウは平然とそんなことを言ってのけた。


「馬鹿言うなよ。お前が約束してるんなら、ちゃんとお前が行かなくちゃ意味がないだろう?ユウの責任だよ。ちゃんと責任を果たせよ」


そんなに簡単に諦めるようなことを言って欲しくなかった。

頼みを突っ返すようで悪いとは思いながらも、そんなことをそう簡単に引き受けることは出来ない。

だが、ユウはそんな俺の気持ちも理解しているかのような微笑みを浮かべて「無茶言うなよ」と言った。


「自分のことは、一番オレが分ってるつもりだよ」



手には、もうずっと……毎日のように繋がっている数本の点滴の管。

元気に走り回っていた頃の面影などない、すっかり痩せた身体。こけた頬。

見ていて痛々しい位だった。

瞳の輝きは未だ失っていないが、身体がいうことをきかなくなってきたと先日ぼやいていたのを覚えている。


きっと手紙を書く作業でさえ容易ではなく、それなりに時間を要したに違いない。

そのユウの気持ちを無駄にしたくはない。けれど…。



「もしも遥が約束の場所に来なかったら、これは処分してくれて構わないからさ」


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