第18話

「え……?」



蒼くんから語られた真相に。

私の頭の中は一瞬、真っ白になった。


(病気……?ユウくんが……??)


混乱している私の前で蒼くんが、どこか寂し気な瞳をして言った。


「あの時、ユウは入院することが決まっていた。闘病生活が長期化することも事前に知らされていたし、避けられない状況だったんだ」


(あんなに元気だったユウくんが……病気……)


自分が見ている限りでは全然そんな様子は見られなかった。

でも、闘病生活というからには重い病気なんだということが嫌でも判ってしまう。


「でも、ユウは遥には知られたくなかったんだ。だから引っ越しをすることになったと嘘を伝えたんだよ」

「なん……で……?」

「それは……。ユウなりの、強がりだったんだと思うよ」

「…………」


言葉が出ないでいると、蒼くんが僅かに微笑んで見せた。


「男は、誰だって好きな女の子の前では弱い自分を見せたくはないものだからね」

「………っ……」

「ユウは本当に遥のことが好きだったんだよ。今日のことも本当に楽しみにしていた。遥と元気な姿で会う為に頑張るんだって……」


そこまで言ったところで、蒼くんは言葉を詰まらせた。

視線は薄暗くなってしまった公園内へと向けられている。

その無表情からは何も読み取ることが出来ない。

だけど、その蒼くんの横顔を見ていたら何だかざわざわとしたものが胸の奥に広がって来て、自分でも戸惑う。


何で、さっきから蒼くんは過去形なんだろう……?


嫌な予感ばかりが頭を過ぎる。

そんな中、蒼くんが僅かに視線を落とすと愚痴ぐちるように呟いた。


「……ったく、ユウの奴……。俺にばっかり、こんな役を押し付けるなよなっ」


何処か皮肉を込めたような笑みを浮かべる。


「蒼くん……」


明らかに躊躇ちゅうちょしている。

蒼くんにとって言いにくいこと。言いたくないことであるのに違いない。


「遥……。とにかく、ユウは今日『来なかった』んじゃなく『来られなかった』んだ。それで納得することは出来ないか?どうしても、ユウのことが知りたい……?」



本来なら、このニュアンスで解ってあげるべきなのだろう。

ユウくんは重い病気をわずらっていて。

ずっと闘病生活をして頑張っていた。

でも、今日来ることが出来なかった。

それで理解して欲しいと……。


蒼くんは、私を傷つけない為だと言った。

真実を伝えることが出来なかったから私を避けていた、とも。


(でも……。それなら、私は……)


「ごめんね、蒼くん。私は、もう……何も知らないままなんて嫌だよ。ユウくんのことも蒼くんのことも、二人のことが大切だから。ユウくんが今どういう状況なのか知りたい。そして……」


驚いたような顔でこちらを見ている蒼くんに、泣きそうになりながらも笑顔を向けた。


「蒼くんがずっと……苦しんでいる理由も知りたいよ」

「はるか……」

「お願いだから……。もう、私から逃げないで……」


蒼くんが胸に秘めることで苦しんでいるのなら。

私も一緒に、それを共有したい。


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