秘められた真実

第15話

「待って!」


公園から丁度出た所で突然後ろから声が掛かり、蒼は足を止めた。

声の主は振り返らずとも分かっていたが、とりあえず呼ばれるままに公園内へと視線を戻す。


だが、振り返ってしまったことを瞬時に後悔した。

そこには泣きそうな顔をした遥がいたからだ。


「待ってよ、蒼くん……」

「…………」


蒼は思わず動揺しそうになるのを表に出さぬよう努めると、とりあえず足を止めたまま遥の次の行動を待った。

遥は涙をこらえながらも懸命に言葉をつむぎ出す。


「どうして……っ……蒼くんが今日の約束のことを知ってるの?やっぱり、ユウくんから……聞いたの?」

「…………」

「約束を忘れろって……。ユウくんは約束をなかったことにしたかったの?だから、蒼くんに頼んだ……。そういうことだよね?」


一つ一つ、確かめるように遥は問いかけて来る。

だが……。


「…………」


蒼は上手く言葉が出て来なかった。

こらえていた遥の瞳からひとしずくの涙が零れていくのを、ただ目を見開いたまま呆然と見つめていた。


本当は「違う」と言ってやりたかった。


だが、否定してしまえば真実を口にしなくてはならなくなる。


遥の知らない、真実を……。


それだけは避けたかった。

真実を知れば、遥をもっと悲しませることになるかもしれない。


何も知ることだけが全てではないと思うのだ。

知らない方が幸せなこともある。


(でも、そんな顔をさせたい訳じゃない……)


本当は泣き顔なんか見たくなかった。

遥には、いつだって笑っていて欲しい。


穏やかに……。

あたたかな日差し下、風に揺れている花のように。


「もう……随分と前のことだもんね。そんな約束……信じて、いつまでも待ってる方がおかしいのかも知れないね。蒼くんの言う通り……忘れるよ、今日のこと。ユウくんにも、伝えておいてくれるかな?」


涙を零しながらも、無理に笑顔を作って微笑んでいる遥の姿が胸に突き刺さる。


「それとね、『ありがとう』って伝えて欲しい。毎年、誕生日を忘れないでいてくれて……。そして、プレゼントも……ありがとうって」


その言葉に蒼はピクリ……と反応した。知らず拳に力がこもる。

だが、そんな蒼の様子に気付くことなく、遥は頬を伝う自身の涙を慌ててゴシゴシと手の甲で拭った。


「ヤダな。私だけ、いつまでも子どものままで……。二人に笑われちゃうよねっ。こんなだから……二人に、嫌われちゃうんだ……ね……」


最後は言葉にならず、再び涙に声を詰まらせた。


「……遥……」





『ユウくんは来ない』


その現実はショックだったけれど、わりとすぐに認めることが出来た。

それは来ないことを想定して、自分の中で事前に心の準備が出来ていたからかも知れない。


でも……。


昔、蒼くんと会えなくなった時のように、曖昧なまま終わりにしたくなかった。


『忘れるんだ』


その一言で簡単に忘れられる程、私にとって小さな約束ではなかったから。

だから、くじけそうになる自分を奮い立たせ、蒼くんの背中を追い掛けた。


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