第14話
(もう、それだけで感謝しなくちゃ……だよね)
二人の存在は、それだけ自分にとって大きなものだった。
でも、あれから数年。
皆成長して、今は昔とは違った生活がそれぞれにある。
(もう、良いんじゃないかな……)
それ以上を望んだら
そんなことを考えていた時だった。
公園の入口の方から、こちらへ向かって歩いて来る人物がいることに気が付いた。
(え……?)
小さな子ども達が多い中、背の高いその人物は自分と同様に制服姿であることもあり、どこか公園内でも目立っている。
(あれは……)
遥は驚き、思わず立ち上がると、その人物がゆっくりと目の前までやって来るのを呆然と見つめていた。
まるでスローモーションを見ているかのように長く感じる。
「あお……くん?」
(何で、蒼くんがここに……?)
遥は信じられないものを見るように目の前に立っている蒼を見上げた。
何故、ユウくんとの約束の場所に蒼くんが現れるのだろう?
(偶然……ってことは、ないよね?)
公園内なのだし、通りすがりということもない。
そもそも蒼くん自らが敢えて自分の前に現れることなんて二度とないと思っていた。
避けられているのだから、当然だ。
だが蒼は、どこか思いつめたような表情を浮かべながら遥の前に立っている。
「あの、何で……?」
訳が分からず口を開きかけた遥の言葉を遮るように蒼が言葉を発した。
「遥……。ユウは、来ない」
「えっ…?」
(今…何て…?)
遥は我が耳を疑った。
(ユウくんは……来ない?何で蒼くんがユウくんとの今日の約束のことを知ってるんだろう?)
この場に蒼が現れた時点で半ば混乱気味だった遥は、その言葉に尚更戸惑いを見せる。
「だから、帰れ。今日の約束のことは忘れるんだ」
「………っ……」
言葉が出て来なかった。
驚きに目を見開きながらも、蒼の表情からその言葉の意図を探るように見つめる。
(何で…?何で蒼くんが、そんなこと言うの…?)
もしかして、ユウくんに頼まれたのだろうか。
来ることが出来ないから蒼くんに伝達を頼んだということ?
でも、約束を忘れろっていうのは…どういう意味なんだろう。
もしかして、約束自体なかったことにしたいのかな?
……そういう意味?
固まって言葉が出ないでいる遥に。
蒼は一瞬だけ申し訳なさそうな、どこか辛そうな表情を見せる。
だが、直ぐに伝えたいことは全て伝えたとでもいうように向きを変えると。
「……じゃあ、そういうことだから……」
そう言って遥に背を向けて歩き出した。
その背を遥はただ、呆然と見送ることしか出来なかった。
久し振りに蒼くんと面と向かって顔を合わせた。
本当は、それだけで凄く嬉しい出来事の筈なのに。
(何で……こんなにも、悲しいんだろう?)
自分でも何でこんなことになってるのか、もう解らなかった。
こんな時だけ声を掛けてくるなんて、
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