第11話

(別に突き止めるとか、そういうんじゃないけど……)


しおりは綺麗に作られているが、どう見ても量産されているようなものではなく、ハンドメイド感が強くて。何処ででも手に入るような代物シロモノではなさそうだったから。


(実際に売ってたら、他の花も見てみたいな……なんて)


実際は、そっちの方が本音だったりして。




「ええ。こちらは当店のものに間違いありませんよ」


花屋の店員の女性がにこやかに対応してくれる。


「お買い物していただいたお客様にサービスでお渡ししていますが、購入することも出来ますよ」

「ホントですかっ?」


嬉しくなって、思わず声が大きくなってしまった。

そんな遥の様子に、店員はくすくすと笑うとしおりの置いてあるレジ横のコーナーへと案内してくれた。

しおりは一枚100円と良心的な値段で、内心安堵あんどする。


「私、実はこの押し花を初めて見た時、一目惚れしちゃったんです。綺麗だなぁって……」


様々な花で作られたしおりを手に取りながら、目をキラキラさせて眺めている遥の様子に、店員の女性は嬉しそうに手を合わせた。


「お嬢さんにそう言っていただけて嬉しいわっ。実は、それを作ることになったきっかけは、ウチの子のアイデアだったんです」

「お子さん、……ですか?」

「ええ。売れ残りや痛みかけて売れないものの中にも、まだ綺麗で生きている花はあって……。それをそのまま処分するのは勿体ないって言って、押し花にしたらどうかって」

「素敵なアイデアですねっ」


(きっと、花や生き物を大切にする優しい人なんだろうなぁ)


思わず感心してしまう。

この店員さんの子どもなら、自分と歳もそう変わらないのではないだろうか。是非とも、お友達になりたい位だ。


「それで、今でもその子が自主的に作ってくれてるんです。だから、お嬢さんの話をしたら、きっと喜びますわ」


店員女性は、僅かに母親の顔を見せると「ありがとうね」と微笑んだ。


そうして遥は二種類の花のしおりを購入すると、その店を後にしたのだった。




そんな遥を店先まで見送った店員は、店内を振り返るや否や腰に手を当てると呆れたように言った。


「ちょっと。何だっていうの?突然、隠れたりして……」


口を尖らせながらも中へと戻ると、奥に向かって息子の名を呼んだ。


「こらっ蒼っ?」


すると、奥の物陰から一人の少年が姿を見せる。


「悪い…」


蒼は遥が帰って行った方向を気にしながらも、どこか遠い目をした。


「何か顔を見せたらマズイことでもあるの?今のお嬢さん、あんたの知り合い?」


溜息を吐く母親に、蒼は苦笑いを浮かべた。


「ああ、まぁ……。知り合いっていうか……。昔の遊び友達、だな」


別に顔を見せてマズイことはないのだが、反射的に隠れてしまっただけだった。


「可愛いお嬢さんじゃない。あんたのしおり、気に入ってくれてたみたいよ」

「うん」


それには、蒼自身が一番驚いていた。

まさか、あのしおりを持って遥がこの店を訪ねてくるなんて。


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