第12話

(でも、このタイミングで来るなんて……な)


皮肉というか、何と言うか。


もうすぐ遥の誕生日だ。

そして、今年の誕生日は遥にとって……。


「…………」



先程、店内で母と会話している遥を陰から眺めていた。

昔と変わらない笑顔。


(花が好きなのも、変わらないんだな……)


あんなに瞳をキラキラさせて。



遥の出て行った方向を眺めたまま立ち尽くしている蒼に。


「友達だったんなら、あのしおり……プレゼントしてあげたら良かったのに。きっと喜ばれたわよ?」


嬉しそうにしおりを眺めていた少女を思い出し、母は何気なく言ったのだが、その言葉に蒼は表情を曇らせた。


「もう……昔の話だよ」


蒼は小さく息を吐くと、中断していた店の仕事へと無言で戻っていくのだった。


その何処か物憂げな息子の背中を、母は首をかしげながらも特に何も聞かずに見つめていた。





それから数日後。

とうとう誕生日当日がやって来た。


「遥、この後待ち合わせの場所に行くの?」

「うん、一応……。本当に来るかは分からないけどね」


学校帰り、朋ちゃんと駅までの道のりを歩いて行く。


「大丈夫!きっと来るよっ」

「そうかな?そうだと良いけど……」

「でもさ、まさかこないだ話してた『約束の日』が、こんなにすぐのことだったなんてビックリだよ」


その言葉に「えへへ……」と笑う。


実は、朋ちゃんには自分の誕生日が今日であることを昨日伝えたばかりだった。


前日に伝えたばかりだというのに、朋ちゃんはプレゼントを用意してきてくれて朝イチでお祝いをしてくれた。

それ以外にも朋ちゃんを含む仲の良いクラスメイト達数人に、昼休みにジュースで乾杯して貰ったりと、今日はとても賑やかな、遥にとって嬉しい誕生日となった。


でも、そんな中でも気が付けば頭の中はユウくんとの約束のことで一杯で。

放課後まで、どこか落ち着かない気持ちで一日を過ごしていた。


「もしかして、遥……。緊張してたりする?」


隣を歩く朋ちゃんが横から覗き込んでくる。

それに目を丸くして足を止めると。


「もちろんだよっ。朝からずっと……ううん、昨日から既に緊張しっぱなしだもんっ」


力説するように力を込めて言うと。その様子に朋ちゃんは声を上げて笑った。


「まっ、仕方ないかっ。七年越しだもん。普通に緊張しちゃうよねっ」

「うん……」

「でも、楽しみにもしてた大イベントでもあるんでしょ?頑張れっ遥!」


そのゲキに大きく頷くと、遥も笑みを浮かべた。


「久しぶりに会えるっていうワクワクした気持ちと、凄く変わってたらどうしようっていう不安と……。でも、もしも来なかった場合でも気落ちしないようにしようって言い聞かせてる自分がいてね。何だか、色々な感情が混ぜこぜなの」

「遥……」


そう。いくら約束したとはいえ、あれは七年も前のこと。

たとえ忘れずにいたとしても、近くに住んでいる訳ではない以上、都合が合わない時だってきっとある筈だと思うのだ。



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