第6話

情けないことに、駄々ダダをこねた。


「そんなに先のことなんて分からないよ。きっと、私のことなんか忘れちゃうんだ」


そんなことを言って。

きっと、ユウくんを困らせた。


引っ越しは家のことであって、まだ子どもである彼にはどうすることも出来ない問題なのだと今なら解るのに。

その時は、ユウくんの気持ちをんであげられなかった。


でも、その時ユウくんが言ったのだ。


「忘れないよっ。忘れるもんかっ!そのあかしにハルカの誕生日には毎年、必ず手紙を書くよっ。誕生日おめでとうってカードを贈るっ。そうしたら信じられるか?待ってられるか?ハルカ?」

「……うん……」


そんな約束を、ユウくんは律儀にも守ってくれているのだ。




「そう言えば、その子って今は何処に住んでるの?」


母が何となく浮かんだ疑問を口にするように聞いてきた。


「それが……。実は知らないんだよね」

「えっ?そうなの?どこ地方へ行くとか、そういうのも聞いてないの?送られてきた封筒とかに向こうの住所とか書いてあるんじゃない?」

「それが……。何も書いてないんだ」

「えー?何か不思議だね?」


母は首を傾げた。


(それは、ホント。私が知りたいくらいだよ……)


毎年届くカードは封筒に入れられてはいるものの、切手などは貼られておらず。宛先も『ハルカへ』のみで、ウチの住所さえも書かれてはいなかった。


そう。それは直接家のポストに投函とうかんされたものなのだ。


もしかして、毎年直接ウチまで届けに来てくれているのだろうか?

そして、それが出来るくらいの所に住んでいる?

色々考えてしまうところだけれど。


(でも、それなら会うことだって出来る筈だし)


えて『16歳の誕生日に』と言わずとも、最低限年に一度は会える機会があるのではないのか?と思うのだ。


でも、いつも届いている時間に決まりなどはなく、気が付けばポストに投函されているか、花束などがあった年は玄関前に手紙が添えられて置かれたりしていた。

だから、ユウくん本人ではなく、誰かに頼んだりしているのかも知れないと思うことにした。


(それはそれで、何だか逆に申し訳ない気持ちにもなるけど……)


けれど、それももう終わる。

きっと今年はないだろうから。


そういう意味では、今年直接ユウくんに会えるのは嬉しい。

彼に会えたら、これまでのありがとうの気持ちをきちんと伝えたい。そう、思っていた。



「でもさ、子どもの頃って、どこの誰だか知らなくても友達になれちゃうから不思議よね。遥のそのお友達も、その典型でしょう?」


母がどこか感慨深げに言った。


「うん。それは、そうかも」


実際、私はユウくんのことを何も知らない。

住んでいる所は勿論、本当の名前さえも。

蒼くんの本名を中学で初めて知ったのと同じで、ユウくんは私にとって『ユウくん』以外の何者でもなく。

こちらに住んでいた時の家さえも知らなかった。


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