第5話

「あー美味おいしかったっ。ご馳走様でした」


食事を終えて手を合わせている母に、遥は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「お粗末さまでした」

「いやいや、遥……本当に料理上手になったよねっ。もうお母さんより料理のレパートリーも多いんじゃない?」

「流石にそこまでじゃないよ」


謙遜けんそんしつつもめてくれるのは素直に嬉しくて、照れ隠しに食べ終えた食器を重ね始める。

すると、それを見ていた母親がすかさず「水につけて置いてくれれば私が洗うからね」と横から口を出した。

夕飯の片付けは、母がやってくれることが多いのだ。


「でも、本当にありがたいよ。こんなに良い子に育ってくれて、私は幸せ者だね」


感慨かんがい深げに話す母に「そんな、オーバーだよ」と笑いながら立ち上がると、食器を流しへと運んでゆく。


「ね、遥。もうすぐ誕生日だねっ。プレゼント、何が良い?」


身を乗り出すようにして聞いて来る母親に、遥は再びテーブルに着くと笑った。


「別にプレゼントとか特に良いよ。ケーキさえ買って来てくれれば、それでオッケー」

「またー。誕生日ぐらい遠慮しないのっ。洋服とかはどう?今度一緒に見に行こっか」


その言葉に、遥は嬉しくなった。


「買い物?行きたいっ」


母と買い物へ行くなんて久し振りだ。


「じゃあ、決まりねっ。今週末行こうよ。帰りにご飯でも食べてこよ」

「うんっ」


嬉しくて早速、テーブルの端に置いていたスマホのスケジュールアプリに予定を打ち込んでおく。


その様子をしばらく無言で眺めていた母が、不意に何気なく口を開いた。


「そう言えば、今年も届くのかね?例の彼からのバースディプレゼント」

「ほえっ?」


突然の母の思わぬ言葉に、咄嗟とっさに変な声が出てしまった。


「なっ、何っ?急にっ……」

「だって、何だかんだで毎年貰ってるんでしょ?遠くへ引っ越しても遥の誕生日だけは忘れないでいてくれてるなんて、律儀りちぎ健気けなげじゃない」

「そう……だね」


確かに、ありがたいことだとは思う。


誕生日に毎年届く、ユウくんからのバースディカード。

時には花束が添えられたりしていたこともあった。


(でも、半分は私が催促さいそくしてしまったようなものなんだよね……)


今思えば、我ながら恥ずかしい話だ。



引っ越しすることになったという話をユウくんから聞いたのは、ちょうど7年前の私の誕生日だった。


両親が離婚したこともあり、『別れ』という言葉に敏感びんかんになっていた私は、あまりに突然の話に悲しくて、その場で泣き出してしまった。

その頃には既に蒼くんも公園に姿を見せなくなっていたので、ユウくんまでいなくなってしまうと聞いて、たまらなく寂しかったのだ。


泣いている私をなぐさめるように、ユウくんは「必ず帰ってくるから」と念を押した。それが『私の16歳の誕生日に会おう』という約束につながるのだけれど。


でも、当時は7年後の話をされても私には遠い未来のことのようにしか思えなくて。



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