第7話

ちなみにユウくんと蒼くんは、何度か家まで送ってくれたことがあるので、私の家を知っていたりするのだけれど。

でも、遊ぶ際に連絡を取ったり、わざわざ家まで誘いに来るというようなことは一度もなく、基本的に公園に行けば二人に会える……という感じだった。

何より、私自身が天候の悪い日以外は殆ど毎日と言って良い程、公園に足を運んでいたので、特に約束をする必要もなかったのだが。



「でも、そういう付き合いって純粋な子どもの世界ならではのものだし、貴重だよね。大人だと流石にそうはいかないもの。世の中、悪い人も沢山いるからね。下手に近寄ってくるやからには気を付けないと」


肩をすくめてそんなことを言う母に、思わず笑いがこぼれる。


「あはは、確かに」


あまりに夢も何もない話だけれど。現実的に考えてみれば、その通りだと思う。


(でも……。確かにそう考えると、子ども時代ってスゴイなぁ)


人を疑うことを知らない無垢むくな心。

そして、後先考えず想いを口にしたり、行動出来てしまう純粋さ。


身元の知らない曖昧あいまいな繋がりであっても『将来お嫁さんにする』とか簡単に言ってしまえるのだから。ある意味、とうといというか。


(でも実際は、ごっこ遊びや言葉遊びの延長みたいなものなんだよね)


言う方も、聞く方も深くは考えていない。

それこそ今になって、そんな昔の話を持ち出そうものなら、ユウくんだって恥ずかしくなって後悔してしまうかも知れない。

もしも「そんなこと覚えてない」って言われたら、それはそれで何だか寂しいけれど、下手に気まずくなるぐらいなら忘れてくれてる方がまだ良いかも知れない。


でも、会おうっていう約束はきっと……覚えてくれてるよね……?




母親が夕食の片付けに取り掛かる頃、遥は自分の部屋へと移動した。


明日の学校の準備を終え、ふと思い出したように机の一番上の引き出しから、ある一つの箱を取り出した。

某テーマパークのキャラクターたちが可愛くデザインされている、お土産のクッキーが入っていた缶箱だ。

それをそっと開けると、中には幾つかの封筒が入っていた。


全部で六通。

それは全て、以前誕生日に届いたユウくんからの手紙だった。


(これとこれが、一年目と二年目に届いたやつ……)


最初の二通のみ、僅かに厚みがある。

実は、届いた手紙は二年目までは彼の直筆の手紙が入っていたのだが、それ以降は市販のバースディカードと、小さなしおりが同封されていたのみだった。


(懐かしい……)


手紙を広げると、小学生の男の子らしい元気な字が鉛筆書きで記されていた。

内容は至って簡単なもので『げんきか?』から始まって『たんじょうびおめでとう』とか、そんな程度だ。

でも、最後に書かれていた『がんばれ、ハルカ。オレもがんばる』というコメントがユウくんらしいなぁと、ずっと思っていて。


(この言葉に何度も元気づけられたんだよね……)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る