刹那の憎悪(2)
「嬢ちゃん、悪いがちょっと顔貸してもらおうか」
ある日。夏樹が一人で歩いていると路地の横から数名の柄の悪い連中が一斉に出て来て取り囲まれた。
声を掛けてきたゴツい男が多分その中のボス的存在の奴なのだと夏樹にはすぐに判った。
だが、どうしても絡まれる心当たりがない。
(見たこともない連中だな。年齢も少し上っぽいかな?)
明らかに高校生ではない
(……絶対知らない
夏樹が冷静に取り囲んでいる
「ある女に頼まれたんだ。少し位乱暴にしても構わないから連れて来いと、な。だが、声を上げたりせずに素直に言うことを聞きさえすれば、とりあえず手荒な真似はしない」
その男が有無を言わせぬ眼力で夏樹を見やった。
「……女?」
尚更、心当たりがない。
「人違い……とかでは?」
とりあえず穏やかに聞き返すと。
「いや、アンタだよ」
と、逃げられないように腕をガッシリと掴まれてしまった。
不穏な空気を感じながらも、夏樹はとりあえず大人しく連れられて行くことにした。
今ここで、こいつらを
だが、相手が確実に自分を指定してきていて、
今逃げれば相手を逆上させ、次はもっと強引な手に出てくるかも知れない。
そんな面倒ごとは
(こんな連中に命令出来る女なんて……。いったい誰なんだろう?)
どうしても分からなかった。
『冬樹』であった頃ならいざ知らず……。
そもそも『夏樹』として関わった人物など、未だ僅かに数える程しかいないのだから。
(考えられるのは……。高校?かな?)
自分が知らなくても女子高に通っている以上、学校には確かに女が大勢いるが。
(でも別に目立たず大人しくしてるし、誰かの反感を買う程何もしていないと思うんだけど……。いや、そうでもないか……?)
自信がなくなってきた。
だが、とりあえずその人物に会ってみないことには分からない……と、夏樹は腹を
「例の女、連れて来たぜ」
男は自分たちが普段溜まり場にしている廃ビルの一室の扉を開けると、足を組んで椅子に腰掛けながら、スマホをいじっている女の後ろ姿に声を掛けた。
「そう。ありがと」
唯花は振り返ると鮮やかに笑った。
「どうだった?少しは怯えて泣いたりした?」
「いや……。あの女、相当
実際、只者じゃない。そう思っていた。
見た目通りのただの可憐な少女ではなさそうだ。
だが、男はそれ以上のことは何も言わなかった。
下手に他の女のことを口にして、彼女にへそを曲げられては
唯花は、男の話に不満そうに首を傾げた。
「そう。つまらない子。少しは泣き叫んだり怯えたりすれば、こちらの気も晴れるのに……」
そうして口を歪めて小さく笑うと、立ち上がった。
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