第6話

清香は夏樹にとって、何でも話せて頼りになる姉のような存在だ。


清香と親しくなったきっかけは、夏樹が熱で保健室へと運ばれた際に女であるという秘密を知られてしまった、ある意味ハプニング的なものからであった。

だが、清香は事情を知った上で、夏樹の想いをんで秘密を守ることを約束し色々とサポート役に回ってくれた、当時唯一の理解者だった。


家族を失い、秘密を抱えていることで他人との関わりを避けて過ごして来た夏樹にとって、そんな清香の存在は絶大で。

自分を偽らずに何でも話せる場所…。そして、清香の優しい人柄に影響を受け、夏樹は徐々に周囲にも心を開いていけるようになったのである。


それに、これは余談だが…。二人は高校で初めて出会った訳ではなく、実は実家が近所同士の顔見知りだった。


歳が離れていることもあり、あまり関わりはなかったのだが、夏樹の幼馴染みの姉が清香と親しくて、一度だけその幼馴染みに連れられて『近所のお姉さん』の家へ遊びに行ったことがあったのだ。

お互いにその友人をはさんで会っただけだったので、微かな記憶しか残ってはいなかったのだけれど。


でも、それらも含めて清香との出会いは、今の自分にとって必然的なものだったと夏樹は思っている。


大切にしていきたい、落ち着ける場所なのだ。



「…そう言えば、雅耶まさやとは連絡取ってるの?明日転入のことも話してたりする?」


さり気なく清香から振られた話題に、夏樹はミルクの入ったカップを両手に持ちながら素直に頷く。


「うん、一応…。昨日電話で…だけど」


そこまで言うと、清香は嬉しそうに笑った。


「ふふ、そっか。今部活はどこも大会続きで忙しそうだものね」

「そうみたいだね」


『雅耶』というのは、夏樹の実家の隣に住む幼馴染みの少年だ。

過去に、夏樹と清香を引き合わせたのも彼である。


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