ヒメゴト

第77話

キーンコーンカーンコーン…


授業終了のチャイムが鳴り響くと同時に、途端に緊張感が解ける校舎内。

教師の号令を合図に、後ろの席から順に答案を集めていくと、生徒達はそれぞれ自分の出来栄えに思い思いの反応を見せ、教室内は賑やかになった。


現在、成蘭高等学校は定期テスト期間中である。

本日のテストはこれで全て終了だが、また明日のテスト二日目に備え、皆勉学に励まなくてはならない。

テスト期間中は部活動も全て休みになり、原則として生徒達は早急に下校することが義務付けられている。


そんな中、冬樹は小さく深呼吸をすると帰り支度を始めた。

今日のバイトは、休みを貰っている。

本当は特に休みなどいらないと言ったのだが、直純に『冬樹にとっては勉強も大事な仕事のうち』と言われて却下されてしまったのだった。


(でも…何か熱っぽいし、バイト休みで丁度良かったかも…)


家に帰って、少し明日のテスト範囲を振り返ったら今日は早く寝てしまおう…と、冬樹は心に決めた。



「雅耶っ」


帰り支度を済ませた雅耶の元に、長瀬がやって来た。


「今日俺先輩のとこにちょっと寄ってく用があるから、先帰ってくれていいよん」

「あ、そうなんだ。了解。じゃあまた明日な」

「うん。バーイ♪」


長瀬と別れると、雅耶は一人で教室を後にした。

昇降口に差し掛かると、下駄箱の前に冬樹がいるのが目に入った。

雅耶は傍に行くのを躊躇ちゅうちょすると、咄嗟とっさに柱の陰に隠れてしまう。


(何で冬樹から隠れてんだろ、俺…)


自分でもおかしいと思いながらも、結局そのままそこから動けずにいた。

冬樹とは、あの鞄を届けた夜から気まずいままだ。

ずっと気になりながらも、あんな風に拒否されてしまっては、流石にどう接していいか雅耶にも分からなかったのだ。


周囲から不自然に見えないようにそっと下駄箱の方を覗くと、冬樹が靴を履きかえて校舎から出ようとしているところだった。

だが、その時…。

不意に横から生徒が勢いよく出てきて、冬樹とぶつかるのが目に入った。


「…って…」


冬樹はよろめきながらも何とか耐えると、その飛び出してきた生徒を見る。


「すっすみませんっ!!」


ぶつかった生徒はペコペコ頭を下げていたが、お互い顔を見合わせると、動きが止まった。


「あ。…アンタは…」


冬樹は珍しく驚いた表情を見せている。

ぶつかって来たのは、ひょろっとした真面目そうな上級生だ。


「あっ…」



(知り合い…なのか?)


雅耶はそのまま柱の陰から二人の様子を眺めていた。


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