第78話

「…へぇ…アンタもこの学校だったんだ…」


すぐに素の表情に戻った冬樹が口を開いたその時、その真面目そうな男を追い掛けて来たのか、突然三人の生徒達がバタバタと冬樹達の前に駆け寄って来た。


「西田っ!オメェ逃げてんじゃねぇよっ!」

「わあぁ…っ」


西田と呼ばれた男は、その迫力に咄嗟に冬樹の後ろに隠れた。

冬樹の方が小さいのに、だ。


「あっ!お前っ!!」


その男達は目の前の冬樹を見るや否や、更に大きな声を上げた。

冬樹は何故かいつの間にか間に挟まれ、盾にされてしまっているこの状況に。


「アンタ達…相変わらずだな…」


そう言って小さく溜息を付いた。




後方で様子を伺っていた雅耶は、思わぬ展開に目を見張っていた。


(あの三人は確か…食堂で冬樹を囲んでいた奴らじゃないか?あの真面目そうな奴といい、冬樹とどんな繋がりがあるっていうんだろう…?)


そう考えを巡らせる中で、突然脳裏のうりに『お前には関係ない』と冷たく言い放つ冬樹の姿が浮かんだ。


(また『関わるな』って言われるぞ…)


そう、自分に言い聞かせつつも。

雅耶は真相が知りたくて仕方がなかった。



昇降口で揉めていれば、流石に目立つ。

徐々に周囲から注目を浴びだしてしまい、三人の上級生達は「一旦引くぞ」…と、焦って声を掛け合うと、その場から離れて行った。

冬樹と『西田』と呼ばれていた上級生は、そのまま三人を見送っている。


(でも…『一旦』って事は、また戻って来るんじゃ…?)


雅耶は不穏ふおんな空気を感じながらも、とりあえず冬樹達が外へ出て行ったので自分も靴を履き替えることにした。




校門へと向かう並木道。

既に大半の生徒達は学校を後にしたのか、歩いている生徒の数はまばらだった。

そんな中…。


(なんなんだろ…。この状況…)


オドオドしている上級生『西田』と何故か並んで歩いている自分の状況に冬樹は内心苦笑した。

西田はモジモジしながらも、横から話し掛けて来た。


「あっあのっ…前はごめんねっ。あ…その…それと、ありがとう…」


必死に言葉を発しているような、そんな男の様子に。

冬樹は足を止めると、西田に向き直って言った。


「それは良いんだ。オレが勝手に見てられなくて首突っ込んだだけだから…。でも、アンタ…西田さん…?アイツらにいつもあんな風におどされてるのか?何か、弱みでもあるの?」


本当は、これ以上関わりたくない気持ちもあったが、あまりにも目の前の男が不憫ふびんで、冬樹は話しを聞いてみることにした。


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