第73話

「なぁ…冬樹。お前、ちゃんと食べてるか?」


そう聞かれ、一応食べてはいるが『ちゃんと』かと言われると何とも言えず、冬樹が無言で考えていると、


「おいおい…。しっかり栄養取らないと、また今日みたいなことになっちゃうぞ?」


そう言いながらも、直純は「熱いから気を付けて」…と、ホットミルクを冬樹の前のテーブルに置いた。


「…昼は学食があるので、割としっかり…」


と、冬樹が控えめに言うと、


「まだまだ成長期なんだから、三食しっかり食べないと駄目なのっ」


…と、本気ではないが怒った素振りでダメ出しされてしまった。

そして直純は冬樹の前の席にさり気なく座ると、何かを考え込んでしまった。



(別に、栄養失調とかでフラついた訳じゃないと思うんだけど…)


冬樹は、改めて店内を見回した。

店内はあまり広くはないが、木目調の落ち着いたお洒落な内装で良いカンジの雰囲気だなと思った。


(前に貰った名刺には、直純先生がマスターと書いてあったけど…流石に一人でやってる訳じゃないんだな…)


先程からカウンター内には一人店員が入っている。


(直純先生が外出している時もお店を任されているみたいだったし、社員か何かなのかな?)


何にしても…他の客もいる中、すっかり迷惑を掛けてしまったな…と、申し訳ない気持ちになった。


そんな時。


「そうだ、冬樹…お前、バイト捜してたよな?…決まったか?」


突然の問いに。


「……?…いえ、まだ…ですけど…」


戸惑いながらも答えると、直純はにっこりと笑みを浮かべた。


「よし。冬樹…お前、この店でバイトしないか?」

「……え?」

「勿論、時間や休みは相談に乗るし。入る時間にもよるけど、賄い付きだぞ」


『賄い付き』…と聞いて、冬樹は瞬時に『気を遣わせている』のだと思った。


「直純先生…」


だが、冬樹の考えていることを察したのか、直純はすぐに言葉を続けた。


「あ。一応言っておくけど、冬樹がバイトに入るからこの条件って訳ではないからな。もともとバイトは募集中だし、まかない付きっていうのもウリの一つだから」


そう言って優しく笑った。


「………」


「悪い話でもないと思うぞ?独り暮らしは何かと出費も多いだろうし…働いて一食分浮くと思えば、かなり大きいんじゃないかな」


(確かに大きい…とは思う…)


迷っている冬樹に、直純は「それに」と付け足した。



「俺がお前を放っておけないんだ」




直純はそう言って優しく笑うと、軽くウインクした。

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