第71話

「はぁ…」


冬樹は今日、何度目か分からない溜息を付いた。


週が明けて学校に来てみると、柔道部勧誘の件でクラスメイトに朝一から囲まれてしまった。


その時の様子や翌日学校を休んだ理由。溝呂木という教師の噂。その他諸々もろもろについて。

興味津々のクラスメイト達には曖昧あいまいな返事をして何とかかわしつつも、教室の移動で校内を歩いていても、何処からか感じる好奇の視線。

そして食堂に至っては、ゆっくり昼食をとるどころでは無く、流石の冬樹も無表情をつらぬくことは難しく、げんなりとしていた。


今までは、この学校に面識のある人物は皆無で。特に気にしてもいなかった上級生達からも、何だかんだと声を掛けられる始末。

悪意は無いものばかりだが、こちらは見知らぬ人ばかりなのに、相手は自分を知っているという違和感。

いつの間に自分の顔はそんなに知れ渡ってしまったのか…それが不思議で、何だか怖いと思った。


そして何よりも。

度々、遠くから物言いたげに見詰めてくる雅耶の視線に。


(流石に…疲れた…)


冬樹は再び小さく溜息を付くと、学校を後にした。




自宅の最寄り駅まで到着し、改札を出て家の方向へと歩き出した冬樹は、ふと足を止める。


(何だ…?)


さっきからずっと、誰かに見られている気がする。

電車の中から何となく感じてはいたのだが、沢山の乗客がいる中そう思うこともあるだろう…と、特に気にしないでいた。

ある意味今日はずっとそんな調子で、自分も疲れているのだと思っていたから。

だが、この駅を降りてからも…というと、話は違う。


冬樹はゆっくりと後ろを振り返った。

夕方の、帰宅途中の学生などで混み始める時刻。

だが、見てみる限りでは知っている顔は勿論のこと、同じ制服を着ている者も近くにはいない。


(気のせい…か…?)


やっぱり疲れているんだろうか。

そう思いつつ、冬樹は頭をぷるぷると振ると、再び歩き出した。



さっきのは、気のせいだったのかも知れない。

もう視線も何も感じない。…というよりも、既によく判らなくなっていた。

かなり精神的に参っていたのか駅前通りの人混みに酔ってしまい、何だかクラクラする。

思わず立ち止まり、傍にあった街灯の柱に手を付いた。

眩暈めまいをやり過ごそうと目をつむっていたその時。


「おい、大丈夫か…?」


突然、横から声を掛けられた。

ゆっくりと目を開けて振り返ると、そこには。


「…直純…せんせ…い…?」



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