第69話

「何だよ、雅耶…どうした?何かあったのか?」


ちょっとした様子の変化にさえ気付く、その観察力は凄いと思う。


「…直純先生。実は…冬樹がこっちに帰ってきたんです」


驚くかな?と思っていた雅耶は、直純の反応に逆に驚かされる事になる。


「ああ、知ってるよ」

「えぇっ!?知ってたんですかっ?」


雅耶の反応に、直純は小さく笑うと、


「二週間くらい前かな…。この近くで偶然会ったんだよ」


そう言いながら、雅耶の前にいくつかの料理を並べてくれる。


「偶然に…。…あいつと話、しましたか?」


何故か元気のない雅耶の様子に。


「…?ああ、少しだけ話したけど。お前…そんな顔して、冬樹と何かあったのか?」


そう直純に優しく聞かれ、雅耶は学校でのこと、昨夜の冬樹とのことを話した。



「なるほどな…。それでお前、そんな浮かない顔してたんだな」

「すみません。昨日のこと思い出したら…何かモヤモヤしちゃって…」


雅耶は苦笑を浮かべると、既に冷めかけているコーヒーを飲みほした。


「お前達はホントに仲の良い兄弟みたいな感じだったからな」

「そう…ですね。ウチは姉貴とは歳が離れてるから…姉貴との小さい頃の記憶ってほとんど無いんですけど、逆に冬樹と夏樹とはいつも一緒で…本当に兄弟みたいに育ったんです」


空のカップを両手に包みながら、雅耶は呟いた。

すっかり肩を落としている雅耶に、直純は少し考える素振りを見せると、ゆっくりと口を開いた。


「なぁ…雅耶。その双子の夏樹ちゃんのことだけど…」

「…えっ?」

「空手の稽古に、よくお前達と一緒について来てたよな?」


直純の唐突な質問に、雅耶は一瞬きょとんとした。


「そう、ですね。一緒に見に来てました。本当は夏樹も一緒に空手を習いたかったみたいなんです。でもおばさんに女の子だからって反対されたみたいで…」

「そう…か…」

「はい。でも、一緒に空手の稽古を見に来て、その日やったことを冬樹が教えたり、俺らと一緒におさらいしたりしてたんですよ」


その言葉に、一瞬直純は瞳を見開いて動きを止めた。


「直純先生…?」


その様子に気付いた雅耶が不思議そうに声を掛けると、直純はすぐに元の穏やかな笑顔を見せた。


「ああ…ごめん。何でもないんだ」


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