足りないもの

第68話

「カンパーイ♪開店おめでとうございまーすっ!!」


落ち着いた色合いのお洒落シャレな店内には多くの人が集まり、賑やかな盛り上がりを見せていた。

『Cafe & Bar ROCO』は、本日開店。

店頭には多くのお祝いの花が飾られ、午後6時からは貸し切りで、知り合いばかりが集まってパーティーが開催されていた。

この店のマスターである直純の親類、友人、ご近所関係、空手関係など様々な顔ぶれが揃っている。


直純は店内のテーブルを丁寧に挨拶して回り、その所々で乾杯やお酌をしては盛り上がり、話しに花を咲かせ、ようやくゆっくりとカウンター内へと戻って来た。


「よっ雅耶、お待たせ!悪いな…一人にして。今日は来てくれてありがとうな」


周囲がすっかり飲み会と化している中、未成年の雅耶はカウンターの端で控え目に座っていた。


「いえっ。ホントに来ただけでお祝いとか…気が利かずすみませんっ」


椅子に座りながらも頭を下げる雅耶に。


「何言ってんだよ。教え子のお前からお祝いなんて貰えないって。でも、その代わりまたりずにいつでも遊びに来てくれよな?たまーにならおごってやるからさ」


そう言って直純は一つ、ウインクをした。


「でも折角来てくれたんだから、今日は好きなもの飲んで食べていってくれよ。まず、飲み物は何が良い?」

「じゃあ…ブレンドコーヒーのホットで…」


雅耶が控えめに言うと「OK」と笑って、直純自ら動いてコーヒーを入れてくれた。


「学校の方はどうだ?もう慣れたか?空手部入ったんだろ?」

「はい。今日も午前、午後と練習行ってきました。今までの大会で対戦した相手だったり、知ってる奴が結構成蘭に集まってるので、楽しいですよ。稽古はキツいですけどね」


雅耶は笑って言った。


「成蘭は昔から空手部強いんだよね。まぁ空手以外でも運動部はどれも盛んみたいだけど…」


そんな直純の何気ない一言に。


「そう…ですね…」


思わず先日の『柔道部事件』と『冬樹』を思い出してしまい、雅耶は僅かに表情を曇らせた。


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