第67話
本当は…気に掛けてくれることは、すごく嬉しかった。
雅耶が昔と変わらず『冬樹』を大切に思ってくれていること。
それが、すごく嬉しかったんだ。
だけど…。
自分は、雅耶が思っている『冬樹』じゃない。
その『冬樹』に対しての優しさを『オレ』が受けるのは違うんだ。
今…雅耶が心配している、大切に思っている『冬樹』は、もういない。
その『冬樹』を殺したのは『オレ』自身なのだから。
「もうオレに関わるなよ。オレの事なんか放っておいてくれ…」
背を向けたまま、肩を震わせてそんなことを言い出した冬樹に、今度は雅耶が行動に出た。
「こっち向いて言えよっ」
強引に肩を掴むと、無理やり自分の方へと向き直させる。
「言いたいことがあるなら、俺の目を見て話せよ」
視線を合わせて、その大きな瞳を覗き込むと。
冬樹の瞳が僅かに揺らいだ。
「いつまでも…昔のままじゃないんだよっ」
そう言って冬樹は、左肩を掴んでいる雅耶の右手を裏拳で払おうとした。…が、逆にその手首を掴まれてしまう。
「……っ!」
「何でだよ。何が違うんだ?」
「…っ…はなせっ…」
思いのほか雅耶の力は強く、掴まれた左腕は外れない。
雅耶は手には力を込めたまま、真剣な表情で冬樹を見据えて言った。
「八年の間、会わずにいたからか?そんな程度の時間で兄弟のように育ってきた俺達の繋がりは崩れちゃうのかよ?」
「お前には…わからないっ!」
「言ってくれなきゃわからないだろっ?…思ってることを話してくれよ」
「もうっ…嫌なんだっ!」
途端に冬樹は右手に持っていた鞄を振り回した。
「冬樹っ!」
鞄を避けようと、うっかり雅耶が掴んだ腕を離してしまった隙に、冬樹は走り去って行ってしまった。
「…くそっ!」
雅耶は後を追い掛ける気にはならず、ただモヤモヤとした気持ちのまま、暫くそこに立ち尽くしていた。
そんな二人の様子を、物陰から身を潜めて何者かが見ていたことに、誰も気付くことは無かった。
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