第2章・失われた友情 4ー①
ジルが懸念していたエリザベスの我が儘は、その他へも飛び火していた。
この先、彼女が王妃ともなれば、この国の淑女達のトップにもなる。
そうした女性同士の交流も上手くやりこなせなければならないと、社交界にデビューする前ではあったが、予行練習の為に女性ばかりの『淑女の会』に出席した。
そこでは次代の王妃ともあって、皆がエリザベスを手厚く歓待をした。
誰もが手を差し伸べて過保護なまでに世話をし、エリザベスを喜ばせる話題ばかりをする。
流行のドレスの話や、ダンスや刺繍などの趣味から、徐々に殿方のあしらい方の話になり、その全ての話題の頂点に立つのはメラルダ伯爵夫人だった。
皆がメラルダを淑女の鑑だと褒め称え、讃美した。
エリザベスは面白くなかった。
既に社交界には、次期王妃になる自分よりも、目立つ女性がいる。
エリザベスはそれを思い知らされ、話題が進むに連れて、口を塞ぐようになっていった。
そうした鬱積が溜まったその時、当のメラルダが現れたのである。
「皆様、遅れてしまってごめんなさい。ちょっと、孤児院に寄付する子供服が足りなくて」
「水臭いですわ。言ってくだされば、うちの子の着れなくなった服もございましたのに」
「うちも、沢山ございましてよ」
「皆さん、ありがとう。でも、あまり派手な物は逆に気を使わせてしまうのよ。ですから、私も職人と一緒にデザインを……」
「まぁ!流行の最先端である夫人のデザインですって!それこそ贅沢ですわ!」
「それこそうちの子のデザインを……いえ、私のドレスのデザインをして欲しいですわ!」
皆の話題が、メラルダに集中する。
今まで、エリザベスに媚びていた者達が、一斉にメラルダにおべんちゃらを言い始めた。
エリザベスは、近くにいた女性を捕まえ、メラルダを指差して聞いた。
「あの遅れて来られた方が、メラルダ伯爵夫人ですの?」
「そうです。あの御方は、とにかく美しさもセンスも、なされる事の全てが全女性の憧れですの。あの年齢であの美しさは、やはり白銀の騎士をも虜にされるだけの事はありますわね」
「白銀の騎士?」
「エリザベス様のお付きの騎士ですよ。白百合騎士団の。アンソニー様はメラルダ夫人唯一の恋人ですもの。私達がいくらアンソニー様に懸想しても、お相手がメラルダ夫人なら、どれだけ足掻いても敵いませんわ」
エリザベスは、目を見開いた。
その先に、薄紫のきらびやかなドレスを着た女がいる。
自分にはない、豊満な胸。
折れそうな程に細い腰の下は、大きく張り出し。
ましげな目尻の黒子は、女の円熟味を更に増していた。
メラルダがエリザベスに気が付いたのか、近寄って来る。
エリザベスは、大きく息を吸って身構えた。
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