第2章・失われた友情 3ー②
「レオナルド様は、賢い御方だな。あの年で、鋭い目をお持ちだ」
心の中で『エリザベスとは年も変わらないのに』と思ったが、性別も育ちも立場も何もかもが違う二人を比べるのは、酷な話だとは理解していた。
レオナルドは日々、知性や気品のようなものが増している。
あの年齢で、あの物腰と品格は王族たる者に相応しい。
それには、アンソニーも同意する。
「あれは、ジュリアスがこの国の王になれば、今は栄華を誇るこのクロフォード王国も、地に堕ちるのを解っているよ。いつもどうすれば良いか、それを考えて成長してる」
「子供らしく健やかに伸びて頂きたいんだが、王宮は悪意と我欲に汚れ過ぎていて、時々、お可哀想になる」
「俺にもどうもしてやれないんだよ、ジル。半分、血が繋がった兄弟だというのに、護る事も助ける事もしてやれない。味方だとも言ってやれないんだ」
それはアンソニーのせいではない。
父親の怨念にも近い王位への固執が、二人を遠ざけてている。
ザンジバル王は、自らの御代と、傀儡の王となる第一王子の御代を、どこまで支配出来るかという盲執に囚われている。
レオナルドが父王や兄に対抗出来るまで力を付けるには、まだまだ時間も必要だった。
「ジル、可能な限り、レオナルドを護ってくれ。あれを護る事は、この国を守る事にもなる」
「分かっている。俺はあくまでも黒鷹の一員だから限界もあるが、レオナルド様の事は父にも相談してある。恐らくは破格の人数の白百合の騎士達が、警備に当たってくれているだろう」
「それを聞いて安心したよ」
弟のレオナルドもまたジルへ、兄のアンソニーを護って欲しいと言っていた。
レオナルドへの実質的な暗殺は、背後に将軍が付いているのだと明確にしていれば、どうこうするのは不可能だろう。
暗殺者を雇おうにも、訓練を受け続けて来た手練れの騎士の前には、赤子の手を捻るようなものだ。
だが、世継ぎであるジュリアスは、第二王子であるレオナルドよりも、異常な程にアンソニーへの対抗意識があった。
本来なら、王位継承権のあるレオナルドやマリウスの方が脅威である筈なのに、何の権利も地位もないアンソニーへ執着する。
それは自分よりも、アンソニーが比類なき男らしい美しさを持ち、また民からも慕われるカリスマ性があるからだ。
国民の皆が、アンソニーを王にしないのは何故だと、疑問を抱いている。
誰も、ジュリアスが王になるのを望んではいない。
そしてまた、そのアンソニーが権力への執着がないのには、更にジュリアスを煽り、苛立せる。
ジュリアスが望むものを全て持ちながら、何の欲もないアンソニー。
自らと結婚すると定められたエリザベスですら、アンソニーを慕っている。
もしも、それがこれからも続くとしたら。
エリザベスが大人となり、アンソニーへ本物の恋心を抱くとしたら、エリザベス自身がこの国の癌となるかも知れない。
その癌は腐臭を放ち、毒となってアンソニーを自身を滅ぼし、傾国へと導く。
誰もその衰退を止める事は出来ないし、何の手だてもない。
最盛を誇るクロフォード王国の未来に、暗雲が立ち込め始めていた。
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