第2章・失われた友情 3ー①
ジュリアスとの昼食を終えたエリザベスの帰宅に合わせて、ジルも同行しようとアンソニーに付いて行く。
すると、ジルを見るなりエリザベスが発狂して取り乱し、挨拶すらも拒絶した。
まるで魑魅魍魎にでも遭遇したように恐怖に体を震わせ、アンソニーの背後へとしがみ付いた。
「いやぁ!いやぁ!死神よ!わたくし、殺されてしまうわ!」
「エリザベス様。ジルは騎士ですよ。この国を守る、誰よりも心強い味方です」
「嫌よ!遠ざけて!アンソニー!わたくしの傍へは近付けないで!」
あまりにも激しくジルを拒否するので、ジルは少し離れて馬を走らせた。
自分の人相が悪いのには自覚があったが、初対面であそこまで嫌悪された事はない。
アンソニーとこの後、約束してさえいなければ、とっとと家に帰っていたところだが、断りすら入れられない状況ではあったので、それを反故にする訳にもいかなかった。
エリザベスをグラッツォ邸に送り届けた後、アンソニーは馬に乗り換えて、二人はゆったりと並走した。
「すまない。エリザベス様は、温室育ちで、男慣れしていないんだ」
「俺の事を本当の死神と思っているとはな。あまりにも幼すぎる気もするが」
「グラッツォ宰相から、目に入れても痛くないという程に溺愛されて育ったんだ。世間知らずにも拍車が掛かってる」
ジルは、レオナルドに対して「エリザベスも、これからお妃としての教育を受けられるから大丈夫だ」と言ったが、あんなにも浅慮な振る舞いには心配になる。
王子であるジュリアスと、初対面の時にも拒絶を露にしていたし、その後、連れ添ったレオナルドが離れようとしても許さなかったらしい。
公の場ではあったのでレオナルドにまで被害がいく事はなかったが、父親のグラッツォ宰相が来なければ、レオナルドとて何を言われていたか分かったものではない。
何もかも全てが、己の思うままになるという高慢さは、王妃になってもマイナスでしかないし、それまでに淑女としての慎ましさを学べるだろうかと思うと不安にはなる。
だが、アンソニーが如何にエリザベスが清らかであるかと語っているのを聞いて、それを口にするのはやめた。
エリザベスに対するアンソニーの純粋な忠誠心に、水を差すべきではないと思ったからだ。
二人は、またいつものように高台の上の大樹へと向かった。
誰にも邪魔されずに話せる場所は、そこしかない。
そうして馬から降り、いつものように木を登って、いつもの枝に座る。
その定位置は、どこよりも安堵する場所だった。
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