第2章・失われた友情 2ー③

「アンソニーの大雑把さが、レオナルド様へ遺伝していなくて良かったです」


「大雑把でも周りを納得させてしまうアンソニーこそ、王としての器だと思うんだけどね」


「レオナルド様は、十二分に学んでおられますし、アンソニー以上の器をお持ちですよ」


「ジルは、僕には甘いんだな」


レオナルドもまた、アンソニー程ではなかったが、王からは軽んじられているし、命を狙われるほどの苦難を強いられている。

まだ子供でありながら、こんなにも達観視出来るまでに至ったのは、本人の性質や才能と共に、この環境がそうさせたのだ。

庶民に生まれていれば、川遊びをしたり、泥だらけになって遊んでいただろう年齢であると思えば、それは痛わしくもあった。


そんな時、軽快なノックの音がして、聞きなれた声で名を名乗り、美貌の男が入室してきた。

白百合の制服を身に纏ってアンソニー現れ、ジルを見るなり『何故、お前がここにいる』とばかりにギョッとした。


「おい、ジル。お前は怪我人だろう。こんな所で何をしている」


「お前こそ、王宮に何の用だ」


「エリザベス様の送迎だよ。ジュリアス殿下と会う時は、邪魔だと言われて追い払われるんだ」


「そうか」


「そうかじゃない!お前という奴は、休養という言葉を知らないのか!昨日、あちこち縫ってただろうが!」


「縫ってた?!縫ってたのか!ジル!」


レオナルドが作法も忘れて立ち上がる。

それには、『問題ない』と言わんがばかりに、ジルが軽く手を挙げた。


「アンソニー。今は実質、警備しているのは外の白百合だ。俺は、レオナルド様のお話相手しかしていない」


「お前はレオナルドに甘い!こいつは、ジルのファンなんだ!そんな自分勝手な我が儘に、そこまで付き合う必要はないからな!」


この部屋には三人しかいないと分かっていたので、アンソニーも砕けた物言いをする。

これが公の場なら、レオナルドを呼び捨てなぞはしないし、これまでも敬語を使っていた。

二人は、人知れず心を通わせた兄弟だった。


アンソニーはジルのとなりに座り、勝手にフォークを取って、当然のように食事を摘まんだ。

その馴れ馴れしさには、レオナルドも苦笑する。


「兄上。礼儀がなってないよ」


「ジルの物は俺の物。俺の物はジルの物だから良いんだ」


「また、子供のような事を」


「子供のお前に言われたくない」


「時代が違えば、兄上こそ、第二王位継承者だったかも知れないのに」


「おいおい。そんな事は小声でも言うな。誰が聞いているか分からないぞ?」


「召し使いも下がらせてるよ。ここには、ジルと兄上しかいない。……この場所は、唯一、僕が休める場所なんだ」


「レオナルド……」


アンソニーは選べるのであれば、自分こそレオナルドに付いてやりたかった。

この権力と欲望で渦巻く王族の直系に生まれながら、何者にも汚されずに育った腹違いの弟。

レオナルドが、王位に就ける事になれば、このクロフォード王国も未来は安泰だろう。


そうして傍で護るのすらも許されない、力ない己の歯痒さに、アンソニーはジレンマを感じていた。

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