第2章・失われた友情 2ー②

季節は夏の盛りへと突入していた。

厳しい黒鷹騎士団の訓練をこの暑さの中でこなせば、傷の治りも遅れてしまうと医者から診断され、ジルは療養の為に休暇を取る事になった。

だがそうして休みを貰っても、ジルは暇をもて余すだけだったので、第二王子のレオナルドに再び付き、その警護に当たった。


昼食にも座ろうとはしないジルに、レオナルドは項垂れた。


「怪我をしているのに、申し訳ないな、ジル」


「怪我といっても、小さな擦り傷や切り傷ばかりなんですよ。たいしたことはありませんので、どうかお気になさらず」


「昼食位、一緒にどう?」


「後で、交代して頂きます」


「僕が、一緒に食べてくれと『命令』したら?」


「……ご一緒させて頂きます」


そうして食事をしながら、ジルとレオナルドは、打ち解けて話をした。

外には護衛の者もいたが、この部屋の中には二人しかいなかったので、ジルも少し気が緩んだ。


「俺がいない間の警備は、万全でしたか?」


「ジルからレイ・サンダー将軍に話をしてくれたんだろう?それはもう、白百合騎士団の精鋭が付いてくれていたよ。アンソニー以外のね」


「アンソニーは、エリザベス様の専属ですから」


ジルの食事作法は完璧だった。

元より侯爵としての教育もなされていたが、一切の音を立てないという訓練も受け続けていたので、食事の際の自然な音ですら、ほとんど聞こえない。

少しの気配も察するジルは、ふとレオナルドから笑顔が消え、表情を曇らせているのに気が付き、ナイフの動きを止めた。


「どうかされましたか?レオナルド様」


「小耳に挟んだんだけど、アンソニーが兄上とエリザベス嬢を取り合ってるって……」


その噂は、貴族の間だけではなく、一般市民にも広まっていて、巷を賑わせていた。

王妃となる少女と、美貌の騎士との報われない恋。

その物語のような恋の噂は、吟遊詩人や物書き達を喜ばせた。

そして、目新しい娯楽に飛び付く平民達の、食卓での格好の話題となった。


それは、ジルの耳にも届いてはいたが、ジルからしてみればアンソニーにはメラルダ伯爵夫人という恋人がいたので、ただのガセネタだと信じていた。


「エリザベス様は、これからお妃としての教育が始まると聞いております。徐々に王妃としての心積もりも出来ましょう」


「そうだと良いんだけど。心配なんだ、アンソニーが」


「レオナルド様……」


「アンソニーに何かあったらと思うと」


「それは、俺が命を賭けて護りますから、ご安心下さい」


「よろしく頼むよ。アンソニーは、自分の事に関して無頓着過ぎるから」


「無頓着を通り越して、行き当たりばったりの無節操ですが」


「ジルは厳しいね」


レオナルドは、皮肉めいた笑みを浮かべた。

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