第2章・失われた友情 4ー②

「初めまして、エリザベス様。私は……」


「嫌い!」


「え?」


「嫌い!嫌い!嫌い!貴女なんて、嫌いよ!傍に寄らないで!」


「エリザベス様……」


「貴女、伯爵夫人のくせに、売女じゃない!夫以外の人を愛人にするなんて、汚い!汚い!汚いーーー!」


中の騒ぎを聞き付けて、各々に付く白百合の騎士達が部屋へ雪崩れ込む。

本来、淑女の会に男が介入は許されないという決まりではあったが、エリザベスのあまりの絶叫に、真っ先にアンソニーが堪らず飛び込んで来た。


「エリザベス様!」


「アンソニー!アンソニー!わたくしだけの王子様!」


「どうなさいました?!」


「ここは嫌よ!わたくし、気分が悪いの!帰りたい!」


「エリザベス様……」


アンソニーが泣きじゃくるエリザベスを抱き上げ、その背をあやしてやっていると、その場の全ての女性から冷たい視線を向けられた。

メラルダも、見た事がないような冷めた目で、アンソニーをではなくエリザベスを睨み付けていた。


「アンソニー様、どうやらエリザベス様は、まだこの淑女の会に入られるには、幼すぎるようですね」


「メラルダ……伯爵夫人、それは……」


「エリザベス様は、そもそもの礼儀を習ってから、社交界のデビューをなさらないと、大恥をかきますよ。女性ばかりだからとはいえ、最低限の決まりを守れないような子供であれば、この会への参加は認められません。外には当分、出られない方がよろしいかと。そう、グラッツォ公爵閣下にもお伝え下さいな」


「畏まりました」


「どうして、アンソニーが頭を下げるの?!わたくしは、この中で1番爵位の高い、公爵令嬢よ!わたくしが王妃になれば、こんな女……」


アンソニーは、エリザベスの口を塞いで再度頭を下げ、その場を立ち去った。

こうしてエリザベスの社交界へのデビューは、予定より二年遅れの十五まで引き伸ばされる事となり。

十六でジュリアスとの結婚を定められていたので、この度の失態からそう経験を積まずに社交界デビューをし、王妃となる事態に陥った。


それは、貴族王族達との繋がりを持てずして、王妃となるという事を意味していた。

それこそが、エリザベスを地獄へと貶める結果になると、その時はまだ誰も分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る