第2章・失われた友情 1ー②

出陣式もなく、黒鷹騎士団はフォンデンバーグの街を出て行く。

黒鷹が実質、この国を守っていると知っている人々から、道々で声援が送られた。


サイランス帝国の軍隊は、隣国のデルフィア国を跨いで侵攻して来たが、前もってその情報を得ていたクロフォード王国は、正面から黒鷹騎士団が迎え伐ちつつ、側面から漆黒の団が切り込んでいった。


その中央を分断し、指示系統を断つ。

各隊の将を失ったサイランス帝国軍は、散り散りばらばらとなり、命を惜しむ者達は早々と故郷へと帰って行く。

意気込んで精鋭を集め、戦を仕掛けて来ただろうサイランス帝国の軍隊を、黒鷹騎士団は壊滅状態へと追い込んだ。


それには、戦の陣形の中央で暴れ回った『死神騎士』の働きによるものが大きかった。

巨大な黒葦毛の馬を巧みに操り、矢尻からはヒラリヒラリと華麗にかわす。

長剣を振りかざし、空を斬る音だけでも、数十人の兵士が後退ったという。

その姿は鬼神の如く、獰猛にして非情。

ジル・サンダーこそ、まさに死神であり、多くの敵兵を死の国へと葬った。


そうして終わってみれば、奇襲をかけた筈のサイランス帝国側は惨敗。

クロフォード王国は、ほとんど死傷者を出す事なく、戦いを終結させた。

無傷に近いとはいえ、その騎士達の様相は、各団によって様々だった。

整列して帰国してくる黒鷹達に、皆が拍手喝采する。

彼らは皆が、命を賭けてこの国を守ってくれていると、民は理解していた。


横から切り込んで行った漆黒の団は、全員が黒い鎧を真っ赤に血で染めて、帰国。

流石に民衆も、その残酷なる戦の生々しさを目の当たりにして、言葉を失い、神経の細い女子供達の中には失神してしまう者もいた。


一団がフォンデンバーグの街に帰って来ると、騎士団の宿舎で着替えや手傷を負った者へは応急処置をして、将校達は直ぐ様、宮廷へと集められる。

出陣式をしなかった代わりに、急遽、戦勝会が開かれた。

王族貴族の集まる晩餐会の場に、黒鷹の階級のある者達全てが集められて、歓談している。

その中で、階級を持たない者はジルだけだった。


この度のジルの活躍は、ザンジバル王の聞き及ぶまでに至り、新たに称号が与えられる事となり。

漆黒の団とは別部隊の、更に隠密に動く新たなる組織として、闇烏やみがらすの団の部隊長として、ジルは任命された。

総勢30名の小部隊とはいえ、戦ともなればより最前線を任される闇烏は、事実上の騎士団長のすぐ下であり、漆黒の団などの各部隊長と変わらぬ地位だ。

流石にジルも、実の父親であるレイ・サンダー将軍から、その勲章を授与された時には、感極まり目頭が熱くなった。


最年少で、まだ戦には二回しか出てはいない青二才と馬鹿にする者は誰もいない。

ジルが将軍の息子だという事に甘んじる事なく、鍛練しているのを知っている騎士達は、その特進を祝った。

そうして誰もが「父君が退かれた後は、将軍に」と望む中、ジルは「自分は生涯、一兵卒でいたい」という慎ましい返答をし、その言葉に皆が感銘を受けた。

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