第1章・穢れなき想い 5ー②
「アンソニー。今日はお姫様のお守りはしないの?」
「殿下に引き合わせましたから。今日はお帰りになるまでは、待機ですね」
「あの子、小さくても女ね。貴方へ恋する目を向けていたわ」
「まさか。まだ十の子供ですよ?俺を童話の王子様だと勘違いしているような年齢です」
「アンソニー、貴方、童話の王子様なのか、自分の王子様なのか、そんな事も見極められないの?」
「嫉妬ですか?貴女らしくもない」
「嫉妬なら、あのお姫様よりも『死神騎士』に嫉妬するわね。命を賭ける程の相手だなんて、誰にも勝てないじゃない」
「ジルは男ですよ?」
「それでも、貴方の何よりも大切な人なのでしょう?」
「互いに命を預けた仲ですからね」
「やっぱり妬けるわ」
そうして二人は再び絡み合った。
今度はさっきよりも深く、長く、密に。
ジルは、そんな二人を木陰から見つめていた。
後を付けて来た訳ではない。
ジュリアスの親衛隊の一人が、アンソニーとメラルダが外に出るのを追うように外へと出たので、それを引き留め、軽く脅した。
あわよくば、アンソニーの弱点を見付けて足を引っ張り、ジュリアスやガストンの前で手柄のように自慢するつもりであったか。
だが、そうはさせるかとジルが締め上げ、恐れをなした男は尻尾を巻いて逃げ去って行った。
そしてジルも帰ろうとした先で、密接なる絡み合いが始まり、足を留めた。
アンソニーの唇が、メラルダの唇を奪い、その舌を絡ませる。
互いの身体を這う手は、まるでジルへ見せ付けるかのように、激しい。
メラルダのドレスが捲り上げられ、白くしなやかな足がさらけ出されて、ジルは顔を背け、その場を離れた。
アンソニーが恋を謳歌するのは喜ばしい事の筈なのに。
この恋を応援してやるつもりなのに。
アンソニーがメラルダを想う気持ちは、自分への想いとは別のものであると分かっているのに。
まるで、親友を奪われたかのように切ない。
幼い頃から、その出自故に父王から存在を抹殺され、格下の身分の者からも迫害されていたアンソニー。
せめてものと、父が育て親のようにして自分と分け隔てなく育てた。
小さな慎ましい屋敷以外、何の財産もないアンソニーが、己を誇示するには剣で名を馳せるしかなく。
その絶世の美貌さえなければ、自分と同じく黒鷹騎士団に入隊し、漆黒の団で剣を振るっていただろう。
幸薄いアンソニーがもしもこの先、メラルダを愛し、結婚するとしても。
それによって、ジルへの友情が薄らぐ事があっても。
ジルは、それでも構わないと思っていた。
アンソニーがそれで、人並みの幸せを得られるのであれば。
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