第1章・穢れなき想い 1ー③

城下町の居酒屋で、一角を占拠する二人の騎士には、皆が遠巻きに聞き耳を立てながらも、店員以外には近寄れない。

それには、人気者である白銀の騎士アンソニー・アシュレイの隣に、漆黒の騎士ジル・サンダーがいたからだ。

アンソニーと同時に『黒鷹騎士団』に入隊し、史上最年少でその精鋭部隊『漆黒の鷹』に加入した、将軍レイ・サンダーの長子を国内で知らぬ者はいなかった。


研ぎ澄まされた青い目は、その鋭さを遮る為に、艶やかな黒髪が鼻先まで伸ばされている。

肉体は、十七の少年とは思えない屈強さであり、この居酒屋の中でも横にならんで遜色ないのは、隣に座るアンソニー位のものだ。

白銀と漆黒、陽と陰、華美と清叔、2人は真逆でありながら、対のようにすら見えた。


「卒業して、侯爵の地位を戴いたらしいな、アンソニー。単なる平民のモテ男から、優男侯爵に少し格が上がった」


「優男侯爵って何だよ。失礼な」


「それなら、モテ男侯爵か?」


「俺はそんなに軽い男に見えるか?」


「お前の容姿に爵位が付けば、落ちない女はいない。最早、無敵だろう」


「どうせ名ばかりの爵位だよ。もしも俺に子供が出来ようとも、爵位は譲られない一代限りの爵位だ。王は、俺をよほどに孤立させたいらしい」


「それはアンソニーが有能だからだ。ザンジバル陛下は、お前に力を持たせ、権力を握らせるのを恐れておられる」


「どのみち、権力には興味がないよ。俺は自ら進んで、王の飼い犬になってやるさ」


アンソニーには、その物腰の柔らかさや、優男にも見える麗しさとは反した、意思の強さかあった。

彼が本心から権力には興味もなければ、のし上がるつもりもないのを、ジル・サンダーは幼い頃から知っていた。

だが、こと剣での闘いや賭け事ともなると人一倍の負けん気を見せ、その対抗意識は総じて自分へと向けられる。

そうして競い合いつつ、共に育ち、同時にアンソニーがジルへ家族以上の親愛の情を向けてくれているのも知っていた。


何かあった時には、自らの命を尽くしても護り抜く。

その誓いは、こうして互いに所属する騎士団が分かれようとも、それは未だに守られていた。

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