第1章・穢れなき想い 1ー①
大国クロフォード王国。
作物や鉱物にも恵まれ、華やかなクロフォード特有の文化を開花させて、まさに磐石なる権力の元、かつてない栄華を誇っていた。
それは、その頂点に立つ勇猛王ザンジバル・クロフォードが、狡猾なるグラッツォ宰相と手を組み、隣国を和平と同時に圧力を掛け、制圧しているのにもある。
南方のダンガスト共和国へは、王妹を嫁がせて友好関係を結び。
物資に富んだ中央のデルフィア国には、特産物などで盛んに交易し。
そのどちらの国にも、クロフォード王国の方が有益を得ていた。
それは、ザンジバル王が圧倒的なるカリスマ性と行動力で、常に優位なる国交関係となるよう協定を結んでいたからだ。
だが、西方のサイランス帝国とだけは、未だに国交断絶の状態だった。
それは『我が国こそクロフォード王国よりも強大なる大国である』という我欲に囚われたサイランスの王の暴走を、配下の者達の誰一人制御出来ないからだ。
二つの国は、この二十年あまり戦争と休戦を繰り返していた。
繁栄を極めるクロフォード王国とは真逆に、無策で実りのない戦争を仕掛けて来るばかりのサイランス帝国は、内政が疎かになり、近年は徐々に衰退しつつあった。
ザンジバル王の息子はニ人、次代の王となる第一王子のジュリアス、そして第二王子のレオナルドがいた。
ジュリアスは、クロフォード王族特有の美しい金髪と翠の瞳を持った美貌の王子ではあったが、体が弱く、床に伏せがちではあった。
父を越える王になるという野心だけは一人前だったが、その体は己が意思に反して虚弱だった。
第二王子のレオナルドは、まだ十五歳という年若さとは思えない、思慮に長けた王子だった。
繊細なる美貌の血統であるクロフォード王族にしては、男らしい容姿をしていて、幼さの中にも知性がある。
だが、ジュリアスとは大分と離れて生まれたが為に、二番目の世継ぎとして軽んじられていた。
より強いクロフォード王国へ。
それが、現王ザンジバルの大いなる志ではある。
故にザンジバル王は、グラッツォ宰相の娘、エリザベスを第一王子ジュリアスの妃とし、この国の基盤を更に固めたいと画策していた。
現在、グラッツォの娘、公爵令嬢エリザベスは三歳。
今から十三年後に、エリザベスは後の王ジュリアスの妃となるのである。
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