序章・我が友との誓い ②

この先、ジルもアンソニーも騎士団直属の学校へ入学すれば、今のようにこの大樹の元で語り合う機会も減ってしまうだろう。

寄宿生活ともなれば、そう頻繁には実家へ帰れなくなる。

だが、二人は共に強い意思を持って未来へ邁進するつもりだったし、この友情が永遠に続くものであると確信していた。


特にジルは、美しい友へ永遠なる忠誠を誓っていた。

アンソニーは、たとえ王位継承権がなくとも、王子としては二番目に生まれた御子ではある。

国や時代が違えば、席を同じくする事も、こうして軽口を叩くのも許されなかっただろう。


「今から思えば、アンソニーは生まれた時から優男だったな。乳児のくせに、乳母や召し使いに笑顔を向けて、悩殺していたし」


「まるで見てきたかのように言うな!俺とお前は同じ年だろうが。ていうか、誰だそんな話をしているのは!」


「うちの爺やだが」


「あの米粒爺やか」


サンダー家の執事は小さくヨボヨボとしていたが、将軍としての多忙を極める父がほとんど帰らない屋敷では、二人にとって身近な祖父のような存在だった。


「それを言うなら、お前だって生まれた時から、周りの奴らを睨み付けて、赤ん坊のくせに泣きもしなかったぞ。レイ・サンダー将軍ですら、抱くのを躊躇っていたんだ。この根暗!」


「誰から聞いた、そんな話」


「お前んとこの、噂好きな婆やから」


「何なんだ、うちの家来達は」


辺りに、アンソニーの高らかな笑い声が響く。

ジルも声こそ出さなかったが、拳で口を押さえ、その笑みを隠していた。


「アンソニー。俺はお前の為なら、自らの命を賭けよう。何があっても、お前だけは守る」


「俺もだ。ジル。お前に何かあれば、必ず手を差し伸べよう。お前は俺にとって、何者にも代えがたい存在だから」


二人は、固い握手を交わす。

ジルとアンソニーは、生まれた時から固い絆で結ばれていた。




漆黒の騎士、ジル・サンダーは、その友情故に、白銀の友の為にならば自らを犠牲にするのも厭わないと、その誠を誓った。

アンソニーへの友情こそ、自らの生きていく上での根幹であり、信条であった。


アンソニーもまた、この友情こそが自らの中で、何よりも崇高なる感情であると信じていた。

そして漆黒の友の為に、いつでも我が身を投げ出す覚悟があった。


どちらもが、互い以上の存在ものはないと解っていた筈だった。

それなのに。

この感情こそが唯一無二のものであると、無意識であっても解っていたのに。


運命は、そんな二人の人生を狂わせる。

その後、人生という大海で方向を見失い、誘惑に惑わされる。

この友情こそ、至高のものであるという信念を忘れ、違えてしまった。




この世には、どちらもが『互い』しか、あり得なかったのに。

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