それが愛だとは知らずに

梅之助

序章・我が友との誓い ①

二人は、似ているようで真逆だった。

また、まるで違うようで、とてもよく似ていた。


片や白銀、片や漆黒という、見た目の印象は両極端であったが、同じ様な身長と体格で、同じ様に長剣を携えていた。

立場は違えども、将来、どちらもが国の柱となるべき人物になる筈だった。


後に『死神騎士』と渾名されるジル・サンダーは、まだ十歳でありながら、大人びた子供だった。

艶やかな黒髪は短く切り揃えているが、前髪は目に被る程長い。

それは、ジルが実直と言えば聞こえが良いが、朴訥で愛想がなく、目付きが悪いのを誤魔化す為だ。

前髪に隠された澄んだ青い瞳は、穢れを知らない輝きを放ち、男らしく凛々しい面差しだった。

ジルは、冷酷と名高い将軍であるレイ・サンダー父を持ち、その剣技の才能も受け継ぎ。

幼い頃から、それを生かすべく騎士団に入隊し、父を支える騎士となるべく精進すると誓っていた。


もう一方の少年、後に『白銀の騎士』と呼ばれるようになるアンソニー・アシュレイは、暗い印象のジルとは違い、華やかな面差しの少年だった。

襟足の長い柔らかな銀髪に、深い翠の瞳は森の奥深く、密やかに存在する湖のようであり。

誰もが振り返る絶世の美貌は、美少女さながらであった。

だが、そんな繊細なる面差しではありながら、意志が強く、己の信念を貫き通すだけの強靭なる精神も持ち合わせていた。

アンソニーは王家の血を引きながら、今は亡き母は庶民であり、妾であるという境遇から虐げられる事も度々あった。

そんな不遇とも言える境遇でありながらも、決して己を悲観したりはしなかった。


ジルとアンソニーは、同じ年、同じ月に生まれ、赤ん坊の頃から兄弟のようにして育てられた。

母を亡くし、父王という後ろ楯すらも与えられなかったアンソニーは、幼児の頃からサンダー家に引き取られ、共に過ごす。

二人は競うようにして学び、また剣の手合わせをしては、いつも夕暮れ時にはこの街を一望出来る、高台にある大木へと登る。


その樹木は、見た事もないような胴回りで、天にまで届くかのような大樹であった。

その木の上から見えるフォンデンバーグの街は、昔ながらの街並みに笑顔の人々が行き交い、近隣のどの国よりも平和であった。

ジルとアンソニーは、ここからの景色が何よりも好きだった。


「ジルは、将来、父上の跡を継いで、将軍になるのか?」


「いや、俺は父上のように隊を纏めて、人を動かす才覚はないと思う。ただ体を鍛えて、父上の手足となって、この国を守るの為に強くはなりたいと思っている」


「相変わらず、欲がないんだな、ジルは」


「そういうお前もだろう。アンソニー。王の子でありながら、王位には興味がない」


「興味がないどころか、俺には爵位すら与えられなかった。父上は、正妃以外の子は興味がないんだ。だからこそ気楽ではあるけどな」


アンソニーには腹違いの正妃の子で、二つ上の兄であるジュリアスと、赤子の域を出たばかりの幼い弟、レオナルドがいた。

母方の姓を名乗れと命ぜられ、地位も名誉も与えられなかったが故に、兄弟達からは一線を引かれていた。

だからこそ騎士として一人前になり、せめて父王からは、一人の人間として認めて貰いたいとは思っている。


アンソニーは王位継承権を、生まれた瞬間から外されていたのもあって、全く興味がない。

ジル同様、騎士として腕を上げ、強くなりたいという野望はあっても、権力への欲はなかった。

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