第38話

「頼む!

この依頼、受けてくれ!」


珍しいな、と思う。

あまりそんな態度を取るヒトではないから。


「…団長…だが…」


「ごめん…ブランネージュ…」


団長ではない、弱々しい声。

それはわたしの耳を撫でるようにくすぐったい声。


「…シオン」

テーブルに伏していたシオンと呼ばれた少年。


頼りなさそうな顔をしているが、意外と強い剣士だぞ。


「キミがやりたくないのは分かるけど、ボクからも頼むよ…」


実はこの酒場

――『うたう勇者亭』は

実は儲かっていない。いつ潰れてもおかしくない状態なのだ。

シルディアを守る方も、最近負けてしまう方が多く、住人からの評価も下がってより繁盛しない。


私がその依頼を受ければいいのだろうが…。


でも。


(シオンのために…)


「……し、

仕方ないな。今回だけだぞ」


途端、安堵と歓喜の言葉が出たのは言うまでもない。


シオンがありがとう。と嬉しそうに微笑む。


「シオンが頼んだからではないぞ…店のためだ」


嬉しいのに、私はそう言ってしまった。

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