第34話

「…どうしよう」


放課後。夕日が教室をオレンジ色に染めていた。

そこに一人、ほぅとため息をついて席に座っている女子生徒がいた。


彼女は机の上に置いている物をぼんやりと眺めている。


『なあ、クレハ。

これは俺の気持ちだ。受け取ってくれ』


2月14日。私はソウマくんからチョコレートを貰ったの。


テレビのCMに、「逆チョコ」という男子から女子に渡す流れがあったのを、ぼんやりと思い出した。

それをソウマくんは実行したんだと思う。


『待ってるだけじゃ、後悔するかもしれないから。だから』


いつになく真剣な目だったから…。私、言えなかった。


よぎるアノヒトの顔。


私は。


私は……。




☆☆☆



「ソウマくん!」


翌月。3月14日。

ひとりで帰り道をフラフラ歩いていた蒼真を見つけた呉羽は、彼を呼び止め追いかけた。


「おう、クレハ!

どうしたんだ?」


「あ、あの…わ、渡したいものがあって…」


呉羽は腕にかけていた紙製のバッグを手に取り蒼真に渡す。


「お、お返しよ。バレンタインの」


「え…!?マジで?」


その時のその時のソウマくんの顔は、なんて言ったらいいか。とにかく意外そうな顔をして、嬉しそうに微笑んでいた。


そんな顔されちゃうと、ちょっぴり痛むけど。


「私の、気持ちだから」

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