A、バレンタイン

第33話

下校途中の事だったわ。キリヤがあたしを呼び止めたの。歩くのをやめて、キリヤが来るのを待っていると、


「シーナ…ちょっと買い物に付き合ってくれないか?」


「はぁ?何であたしが…」


「バレンタインのお返し」


「………ああ。それ、ね…」


そうだったわ。

あたしがあげたんだけど、違う人があげた事になってるんだったわね。


☆☆☆


「どういうのがいいかなぁ…?」


ホワイトデーコーナーを、うろうろ歩きながら悩んでいる様子のキリヤ。


「あ!

こういうのはどう?」


自分の物を選ぶ事になってしまった椎名。困ったけど嬉しい。でも面白くなかった。


…何で分からない相手のお返しを真剣に悩むのよ?


もしあたしがあげたと知ったって、こうはならないわ。きっと。


「こういうのが好きそうな子だった?」


「ま、まぁ勘よ。勘!」


「いいかげんだなぁ…って言うか…シーナ。1年の誰だかまだ分からないのか?」


「し、仕方ないじゃない。似たような女の子ってたくさんいるんだもの」


いっそ自分だって言ってしまおうかと思ったが、今更すぎてためらわれた。


ふと、アクセサリーコーナーが目に留まる。


あ、コレかわいい!


「どうした、シーナ?」


「あ…いや、コレ彼女がつけたら似合うんじゃないかなーって…」


その様子に霧谷も気がついて、椎名の視線を追う。


「ヘアピンか…。

よし、コレも一緒に買おう!」


「へ?」


そうと決まるとキリヤはさっさと精算して店を出た。


「じゃあ…それはあたしが渡しておくわ」


「どうして?

まだわかってないんだろ?分かったら俺から渡すか…」


「わ、分かるのよ!

その子控えめの子だから、アンタが行ったって逃げちゃうわよ!だからあたしが渡しておくから!」


言って椎名は強引に霧谷からヘアピンの入った袋を取り上げる。霧谷はあまり納得していなかった。


うぅ…これじゃ雰囲気ぶち壊しよ…。





おわり。

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