第2話

 切迫したような表情。怯えるようにザイードを見上げた紫色の瞳。

 ナーディアは今にも泣き出しそうだった。

 

 その状況に混乱したのはザイードだけではない。

 尋常ではないナーディアの様子にアクラムはなぜか咄嗟に腰の剣に手を遣ってしまい、呼ばれたアメナはその場でオロオロとする。


 「ナーディア姫、俺に平伏をする必要はありません…!どうぞ立ち上がって下さい。

 俺は本当に怒ってなどいませんから。

 これまでの間に、貴方に腹を立てる理由がどこにありましたか?」


 (初対面の男が近寄ったのが怖くて身を引いた…というなら仕方のない話だ)


 (それにしても…怯え方が普通ではない)


 

 結局ナーディアは口をつぐんでしまい、ザイードの問いには何一つ答えなかった。

 怯えているため肩に触れて支える事さえできず、ザイードは口頭で心配する他なかった。


 それから怯えた彼女を立ち上がらせるまでに時間がかかった。

 何とか納得してもらいアメナに神殿までのエスコートを頼む。

 

 終始青白い顔をするナーディアは、アメナに寄り添うように応接間を出て行った。

 それを見送ったザイードはふう…と大きな溜息を吐いた。



 「………ところでアクラム。その剣に置いた手は何だ?」


 「あ、いや…突然殿下の前に飛び出すもんですから何か仕出かすのではと…思わずこのような反応をしました。すみません。」


 「いや…まあ…今回に限り許そう。

 だが2度目は駄目だ。…彼女は俺の花嫁なのだから。」


 「はい、殿下。…以後気をつけます。」


 (———アクラムだけじゃない。

 たぶん今ここにいた全員がナーディアのあの態度に驚いたんだろう)


 (俺の対応が…やはり何処かおかしかったのだろうか?)


 (確かに俺は怒ってなどなかった。

 …けれど、むしろあの様な態度をされた方が気に掛かってしまう)

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