第2話

 (……見惚れている場合ではないな)

 

 ザイードは照れを隠すように咳払いをした。


 これからの予定としては宮殿の離れにある神殿で結婚式を挙げることになっている。

 既にその分厚い衣装の下には婚礼衣装を身につけているであろうナーディアを、式場までエスコートしなければならない。

 そこから式が始まるまでお互い控室で最終的な正装を整えるという流れだ。

 そこで軽く敬礼をしたザイードが何気に一歩近づくと。


 「………!」


 それに合わせるようにナーディアが一歩下がる。

 先程まで普通だったあの表情が打って変わり、まるで何かに怯えるように肩を張り…眉を顰めて俯いてしまったのだ。

 不思議に思ったザイードは思わず訊ねる。


 「…どうしましたか?ナーディア姫。

 ………もしかして、俺が近付いたのが不快でしたか?」


 「…あ、ち、違います殿下……

 ただよろけてしまっただけなので……

その悪気はなかったのです…どうかお許し下さい。」


 (…という割には小刻みに震えているじゃないか)


 (顔も青ざめているように見える)


 (…もしかして怖がられている?)


 「ナーディア姫。俺は別に怒ってなどいませんよ。

 だからそんなに怯えないで下さい。

 もし俺が駄目なら誰か…女性の使用人のほうにエスコートを任せますので。」


 そう言ってザイードが側に控えていた使用人の一人、アメナを呼んだ。

 だがナーディアがさらに青白い顔をしてザイードの前に両膝を突き、急に地べたに平伏したのだ。


 「殿下…どうか無礼をお許し下さい……!

 私が…私が悪かったのです……!

 だからどうか…

 殿下、もう一度私にチャンスを下さい…!

 お願いします………!」


 「ナーディア姫…!?」


 (…これは一体…………)

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