第2話

 ◇◇◇


 ザイードが住まうラースの宮殿は国境の壁地に囲まれたすぐそばに位置する。

 壁は赤煉瓦や頑丈なノグナという植物の樹液を塗りこみ強度を上げた土壁でできている。

 敵襲に備える見張りの櫓は内側に引っ込んでいて相手に見つかりにくく、各所に特殊な設計がされている。

 

 決して煌びやかではないが上品で清潔感がある宮殿。

 その広い中庭には砂漠地帯に生息するサボテンの花などが咲いていて、公共用水として町民達にも開放されている噴水が涼しげに出迎えてくれる。

 雨水を濾過して循環させている噴水は、水不足で喘ぐ町民達への苦肉の策だった。


 

 食事や身の回りの世話をする男女の使用人が複数人いるが、ザイードは父王や他の王子達とは違いハレムや妻を1人も持たない。

 だからザイードにとっては今回の結婚が初婚となるのだ。

 

 彼らが宮殿に入ったすこし後…あまり派手でない輿が到着した。

 許可を得て宮殿の正面の扉を開けた従者が、ザイードの前に頭を下げて告げる。


 「ザイード殿下。予定より早く花嫁が到着されました。

 …いかが致しましょう?」

 

 「…もう?分かった。

 しばらく応接間に通しておくように。

 半刻程で挨拶に向かうと伝えてくれ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る