第1話
そんなザイードをよそにアクラムは更に不満だという顔をする。
「…その噂を抜きにしたって、あの王妃様もそうですが、なんならガシェー王も酷すぎませんか?
まさか自分のお古である、離婚した側室を送りつけてくるなんて。
殿下を侮辱するにも程がありますよね!」
「ああ…その事か。」
なぜか当事者よりも不服だという顔をするアクラムを見て、ザイードはそれを宥めるように溜息を吐いた。
(………確かにアクラムが憤るのも分からなくはない)
今日このマタルに嫁いで来るその花嫁は、罪人という噂だけではなく元々はガシェー王のハレム(※後宮)の側室だったという。
しかしその水害を引き起こした事で断罪されて王に離婚され…挙句にザイードの妻にと薦められたのだとか。
そう聞けばアクラムが余り良い気分がしないのは仕方がない話かも知れない。
しかし真面目なザイードはこの婚姻を断ればガシェー国との際どい親交にヒビが入ることを懸念し……悩んだ末に結局受けることにしたのだ。
これより泣いても笑ってもニ刻後にはその花嫁に対面する事になる。
何かを決心した様にザイードは厩舎に繋がれていた駱駝を引き、それに飛び乗った。
「ひとまず会ってみなければ分からない。
百聞は一見にしかずというし…
一方的に聞いた話だけで、これから訪れる花嫁に偏見を持つのは何か違う気もする。
まあ、万が一にも噂されるような女性なら婚姻はするがあとは深入りせず…ひたすら遠ざけるだけだ。」
「…なるほど。さすが殿下!
やっぱり何事にも気持ちが乱れませんね。
俺にはそんな風に考えるなんて無理ですよ。
だったら………
俺も一緒にその花嫁をしっかり見極めますんでご心配なく。
もしも噂通りの悪女なら俺が殿下に容易に近付ける事はしませんからね!」
穏やかで真面目なザイードとは違い、明るく勝ち気なアクラムはそう言って再び自分の駱駝に乗り、宮殿に向かうザイードの後を追った。
(……相変わらず頼もしいな)
ザイードは自分に対するアクラムの分かりやすい思い遣りに、振り返る事なく微笑んだ。
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