第1話

 ガシェー大国は、マトハルと同じような砂漠地帯の隣国である。

 ただし違いを挙げるならばオアシスの数がマトハル国より多いほか、特産品や果実もこことは異なるものが流通しているという部分。

 そして何より決定的に違うのが、数年前まではよく雨が降り、今も国が豊かという点だ。


 実はそのガシェー国とマトハル国は昔から仲が悪く、過去には戦争をした事さえある。


 そのガシェー国の王から今回、親交の証として送られてくるのが、国にひどい水害をもたらし多くの人々の命を奪った【罪人】と噂される女だった。

 元は減少傾向にある遊牧民で、希少なゲシュム族の姫だという。


 実はこのゲシュム族には昔から不思議な力が宿り…信仰に厚い一族の女が祈れば恵みの雨をもたらすという伝説があった。


 確かに今年の春…ガシェー国内では酷い水害が起こり大勢の人が亡くなっていた。

 

 かと言ってたった一人の人間がそれだけの規模の水害を祈りだけで引き起こしたとはにわかには信じられない。

 自然災害という事象だけに証拠でもない限り事実かどうかを確かめるすべはないのである。


 しかもこの婚姻はザイードの許可なしにマトハル国の王妃がガシェー国の王と勝手に取り決めたものだ。


 王妃であり継母であるシャイマーは、とある事情でザイードを長年利用し続けてきた。

 しかし…ザイードがついにシャイマーに見切りをつけて離れると、今度はあの手この手でザイードを王位から遠ざけようとした。

 

 つまりこの婚姻は、ザイードに何の後ろ盾もない姫を当てがい、権力を持たせないようにとするシャイマーの策略だったのだ。


 しかし……そもそもザイードは王位に興味がない。

 むしろ王族というものが嫌で自らここに赴任したようなものだ。

 それにこんな辺境の地にいるザイードに一体何ができようか。


 (【罪人】と言われれば気に掛かるのは確かだが、噂の通りに多くの人々を死に追いやる悪女のような女性なのかどうかは、自分の目で見て確かめなければ何とも…)

 

 これから訪れるであろう花嫁について、ザイードは自らの感情を一歩引き、冷静になって考えていた。

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