第1話

 琥珀色の瞳はマトハル国の王族だけに現れる希少な色だ。蜂蜜を溶かし何年も熟成させたような深みがある。

 厚いターバンに巻かれたその下にサラサラと靡く髪は、恵みの雨をもたらす曇り空によく似た灰色。

 この国の人は瞳も髪色もほとんどが黒か茶褐色なのでザイードはそれだけで珍しかった。

 

 決して派手な装飾は好まず、代わりに上品な白を基調とした伝統衣装をまとっている。

 細い腰にはナパームの樹皮でできた帯が巻かれ、護身用の短剣を携帯している。

 外出時にはいつも分厚いターバンや目元まで覆うストールを巻いているのであまり日焼けはしていない。

 加えて21歳という若さで肌は水々しく見目麗しい。

 それから少し目尻が垂れ下がっていて、どこか柔らかく優しげな雰囲気をしていた。



 「…やっぱり駄目でしたね。どこの観測所も雨は一滴も降ってないようです。」


 「…そうか…暑い中、ご苦労だったな。」


 駱駝を降りながら申し訳なさそうにするアクラムにザイードはふと優しげな笑みを浮かべ、その肩を親しい友人にするように軽く叩いた。


 「心配するな。まだヤパルルクの芽は芽吹いたばかりで収穫には時間がある。

 きっとそのうち雨は降るだろう。」


 「はあ…だと良いんですが…って……それより殿下!!

 こんな場所に呑気にいていいんですか?今日でしたよね?」

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