1.マタルに嫁いできた悪女

第1話

 南の国マトハルは、ほとんどが砂漠地帯だ。


 王都や人々の居住区から離れれば果てのない泥濁色の砂漠が延々と続く。

 どこの国よりも太陽が近くて暑く、おまけに滅多に雨が降らない。

 そのせいで各地では否が応にも砂漠化が進んでいる。

 このまま今年も雨が降らなければ作物が育たず、また深刻な食糧難が訪れるかもしれない。


 しかしこればかりはどうしようもない。

 雨は自然の恵であり、人がどうこうできる問題ではないからだ。


 それでも砂漠地帯に人は住み当たり前のように生活を営んでいた。


 王都よりずいぶん離れたこの国境付近の町・マタルでは、路上で伝統工芸品である幾重にも丁寧に編み込まれた美しく繊細な織物や、砂漠のオアシスでしか取れない珍しい植物ナムーパの皮でできた籠などを売ったりして人々は生計を立てている。

 

 国からの援助も乏しいこの町の人々の暮らしは決して楽ではないが、それでも彼らは笑顔を絶やさず何事もあきらめない。


 「ザイード殿下。」


 「…アクラムか。」


 降水状況を確認すべく砂漠の観測所を巡回してきた側近のアクラムが、駱駝ラクダの手綱を引き、第3王子であり、この領地を治めているザイードの前で立ち止まった。

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