第21話
———傲慢な宣戦布告をした浩宇が逃げると同時に、素早く雲嵐が命令を下した。
「憂炎、追え!今度こそ逃すな!」
「御意に!」
「私も…!」
逃げる雷浩宇を憂炎が追い始めると、私も馬から降りてそちらに駆けて行こうとした。
しかし。
「お前は駄目だ!足手まといになるだけだ!」
「へ…いか?」
……それ本気で言ってるの?
だって雲嵐も知ってるくせに。
私が化け物並みに戦えるってことくらい。
ここで戦いに行かなきゃ何のために影衛隊にいるのよ?
しかも、人の唇を勝手に奪った雷浩宇を何としても捕まえて謝らせなきゃ気が済まないというのに。
馬に乗りながら私の進行を阻むし、足手まといだとか言ってくるし、ちっとも愛情なんか感じないのに。
雲嵐は怒っているような目をして私を何度も足止めする。
何で引き止めるの?雲嵐。
やっぱりあなたが良く分からない…
呂色の瞳で冷めた視線を向けられたのは、私が雪玲の時に後宮に上がった瞬間からだった。
それまでも何度か冷たく感じてしまう瞬間はあったけれど。
明確に嫌われていると感じたのは妃になってからだ。
あなたが私を他の側室たちと同じように権力欲しさに後宮に上がったのだと勘違いし、だから露骨に嫌われているのだと思い、それが凄く悲しかった。
ならばいっそあなたに嫌な態度を取って、後宮から追い出してもらおうと思った。
あなたが文句を言えば文句を言い返し。
意地悪をすればそれなりにして返す。
好きな人に嫌われるならいっそ離れたい。
それがささやかな私の反抗だった。
——————本当は嬉しかったのに。
あなたの妃になったことが。
だけどあなたは、今この身体になって蘇った雪花にも似たように冷たいのに。
時々そうやって言葉と行動が伴わない瞬間がある。
まさか嫌いな
あの時何で私に口付けしたの?
雲嵐———。
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県境の火藍手前の岩山で、雲嵐たちに雷浩宇の矢が再び降り注いでいたその頃。
————朱城。
宮廷では雲嵐を取り巻く不穏な影が渦巻いていた。
皇太后の住まう
「…貴妃。静芳よ。」
「はい、皇太后様。」
「あの日…雷浩宇の奇襲が失敗に終わったそなたを助けたのは、何も後宮でのうのうと暮らさせる為ではないぞ。
分かっておるのか?」
「はい…!存じております!」
現皇帝、雲嵐の母親である氷水が処刑された後に皇太后の座まで駆け上がった、元は冴えない「貴人」だった妃。現皇太后、由麗麗。
大した美人でもなければ性格も悪いが、閨での技は前皇帝を、政務を疎かにさせるほど上手だったと聞く。
しかし実は、太子を産み一時期は寵愛を受けていた氷水をひどく妬んでおり、処刑の案を出したのもこの皇太后だったという噂がある。
加えて前皇帝の冬雹を暗殺したのではないかと囁かれていたが真相は闇の中——————
重たい髪飾りや煌びやかで豪華な装飾を身につけその貫禄のある容姿で、平伏し深く頭を下げる貴妃・静芳を容赦なく冷たく見つめる。
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